空母に大きな損傷はなく、空母および航空団はまもなく通常の活動を再開した。現在、米海軍第7艦隊の司令部は、南シナ海に沈んだ戦闘機を、敵の諜報機関の手に渡る前に引き揚げようと協議を開始している。
緊張状態
この一件できわめて興味深いのは、事故が南シナ海上、フィリピン西岸近くにある空母の上で起きたという点である。空母「カール・ビンソン」は、F35C戦闘機を搭載した第314海兵戦闘攻撃飛行隊の空母「エイブラハム・リンカーン」と並んで配備されていた。
つまり、現時点で最新の戦闘機を装備した空母打撃群がそこに集結していたということである。F35C戦闘機は2019年に運用が開始され、2020年1月に第314海兵戦闘攻撃飛行隊に配備された。
今回の事故は、F35Cの初の事故であるのに加え、戦闘態勢に最大限に近い状態で起きた戦闘機事故である。2022年1月22日、米軍は台湾南部に、米海軍第7艦隊の艦艇―空母「カール・ビンソン」、「エイブラハム・リンカーン」、強襲揚陸艦「アメリカ」と「エセックス」を集結させた。また米海軍が公表した動画には、日本の自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦「いずも」が並んでいるのがはっきりと映し出されている。「いずも」にはF35B、F35Cが搭載されていた。おそらく、米軍がこれほど大規模な空海軍部隊を集結させるのは初めてのことである。
2022年1月23日、中国空軍は、台湾南東部に39機の軍用機を派遣した。その内訳はJ16戦闘機24機、J10戦闘機10機、核搭載可能なH6爆撃機1機、Y9輸送機2機、Y8対潜哨戒機2機である。
米国、中国、両国が、自国の軍事力を集結させた。状況はかなり緊迫したものとなっており、瞬時に航空戦となる可能性を秘めている。
事故原因はおそらく操縦ミス
空母からの戦闘機の発着はきわめてリスクが高いものであり、操縦士の訓練には大きな注意が払われている。とりわけ、最終進入、甲板への着艦、アレクスティング・ギアを使った制御は優先的なものである。
そこで、空母への戦闘機の着陸の際の事故というのはきわめて稀で、最近、米海軍で置きたこうした事故はわずか2件となっている。1件は、2002年3月8日に原子力汎用航空母艦「ジョン・C・ステニス」に着陸しようとしたF14A戦闘機が墜落し、操縦士らが緊急脱出した事故。そして2件目は2007年8月15日に早期警戒機E2Cの操縦士が、空母「ハリー・S・トルーマン」に着陸した後、緊急脱出し、航空機が海に落下したという事故である。
航空機の専門家によれば、今回の着陸の失敗は戦闘機の後部が甲板にぶつかったことによると見ている。つまり、事故原因はおそらく操縦士のミスだと思われる。それはわずかなミスではあったものの、墜落するのには十分だったのである。そしてそのようなミスが引き起こされたのは、おそらく空母から数多くの航空機が発着していた上、周辺に中国軍機がいたことにより、状況が緊迫していたためだと考えられる。敵となりうる軍の存在は緊張感を高めるものである。
天候による影響で飛行が通常より危険なものだったとは考えにくい。2022年1月24日のこの海域の波は最大1.5メートルとそれほど高いものではなかった。波の影響で空母が動揺したということもなく、風も強くはなかった。さらに、技術的な問題も報告されていなかったことから、残される原因は操縦士のミスだけである。
今回の事故を受けて言えることは、この事故により、南シナ海の緊迫した状況がある程度、沈静化したということである。メディアは戦闘機の墜落事故に目を向け、これにより、両国が軍備を結集させたという事実が重要性を失い、事実上、忘れ去られたのである。南シナ海における米中の対立は紛争をエスカレートさせる要因となる可能性があったことを考えれば、事故が功を奏したとも言えるだろう。
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