「食糧危機の兆候は明確に出ていました。それが2年間も続いていたのに、国連もG7もG20も黙っていたのです。この問題を取り上げるようになったのは、2月末になってからです。まずひとつに、ロシアとウクライナが世界の一大穀物供給国であることが理由です。近年、世界の小麦輸出に占めるロシアとウクライナのシェアは約30%、ひまわり油では70%を超えていました。ひまわり油は非常にニッチな市場で、消費国も限られていますが、それでも40ヶ国近くがロシアとウクライナからの供給にほぼ100%依存しています。この2ヶ国はどちらも市場から退場しており、戻るのは難しいでしょう。世界の市場に開いてしまった「穴」は、現在の価格であれば、いずれ埋まるでしょう。痛みは伴うでしょうし、時間もかかるでしょうが。
問題のもうひとつの側面は、化学肥料市場からロシアとベラルーシが退場したことです。この2ヶ国にほぼ100%依存している国も約40ヶ国あります。つまり、これらの国々は、世界市場で調達できる量が減り、また、肥料は収穫に影響するため、自国での農業生産量も落ち込むことになります。もうひとつの悪材料は、2年間続いているコモディティ、特に石油、ガス、金属のインフレです。つまり、農業に必要な資源はすべて値上がりしており、それが農業生産の下押し圧力になっているのです。」
「ヨーロッパとアメリカが飢餓になるという意見もありますが、それはないでしょう。食事内容が多少変化したり、物流などの問題が生じることはあるかもしれませんが、欧米諸国は解決できます。OECD諸国のように、食費が支出に占める割合が10%程度のところでは、それほど大きな影響にはなりません。もちろん、こうした国にも貧しい人や難民はいますが、社会システムがそのような人々を支援できるようにできています。最も大きな犠牲を被るのは、アフリカ、南アジア、ラテンアメリカの貧しい国々であり、食費が家計支出の50〜60%を占め、他の支出項目全体よりも大きい国々です。これをどうやって解決していくのでしょうか?何年も続いた干ばつが終わり、オーストラリアが輸出市場に戻ってきますし、インドも進出しています。
ヨーロッパでは、グリーンディールの中止を、つまり、農業生産への制限解除を求める声がすでに上がっています。現在の食糧価格であれば、新たな耕作地を開墾することもできるでしょう。ましてや、移民労働力も流入しているのですから。それでも、最貧国は飢餓の問題に直面する可能性があります。前回の2006〜2008年の食糧危機は「アラブの春」につながりました。今回の危機が何をもたらすのかは、推測することさえ困難です。だからこそ危険なのです・・・」