しかし、そのうちの1つがセンセーショナルを巻き起こす結果となった。同大統領の発言が中国政府との関係で非常に挑発的なものとなり、中国外務省による相応の反応を引き起こすこととなった。ロシアの専門家で、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所アジア太平洋研究センターのアレクサンドル・ロマノフ所長は、「このことは、地域情勢の不安定さを減らすのではなく、むしろ増大させている」と指摘する。
例えば、米国大統領は数十年ぶりに台湾に関して明確な態度を示した。バイデン大統領は、中国が侵略した場合、米軍は台湾を防衛すると述べた。このように、米国政府は事実上、台湾に対する「二重戦略」を放棄した。言葉の上では、米国政府はこれまで通り「1つの中国」政策を支持していると主張している。
しかし、米国の「より明確な」戦術は、直接的にアジアでの軍事紛争の発生を可能にしている。ロマノフ所長は、欧州のウクライナとは違うが、エスカレートする危険性という点では似ていると考えている。
「バイデン大統領が東京で語った内容は明らかだ。米国は、中国政府の懸念を考慮することなく、中国を巻き込んだアジアでの大規模な軍拡競争の広がりを期待している。こうして、非常に危険な状況が地域で作り出されている。米国政府は、『不可逆的』な事態(台湾周辺の軍事紛争のような)が生じた場合、中国と台湾の統一は不可能となることを考慮していない。台湾は正式な独立に向け動き始めているのだから。これは典型的な米国の戦術であり、状況を不安定にさせる。例えば、台湾により多くの武器を提供し、米国が台湾を軍事的に防衛する用意があると宣言することだ。これに対応し、中国政府はその紛争に勝利するための準備をしなければならず、米国政府はこの問題で中国が譲歩しないということを良く承知している」
そのため中国政府はこうした事態の進展に合法的に備えていた。ロマノフ所長によれば、2005年、中国は「国の分裂防止に関する法律」を採択したが、この法律には、中国は自国のいずれかの領土(分離を希望)に対して武力を行使する権利を有しており、その権利が行使できるすべての事例について詳しく記載されているという。
しかし、東京でのバイデン大統領の台湾に関する発言は、米国が中国との対立に期待を強めていることを示唆している。
そのため、この地域の「現状」を維持することは、実質的にはすでに揺らいでいると、ロマノフ所長は指摘する。
「バイデン大統領が、台湾は米国の軍事的保護下にある と公然と発言したことは、台湾の(中国からの独立に向けた)今後の政治的動きの明確な扇動といえる。当然、米国政府は、このことを台湾における正常な民主主義的現象であり、現状を脅かすものではないと見るだろう。台湾はすでに中国政府と対等な2つの国家主体として交渉することを望んでいるが、それは当然不可能だ。しかし、台湾は別の形で交渉することをまったく考えていない。そして米国は、台湾の指導部のこうした気分を煽り、軍拡競争のための前提条件と地域における軍事紛争の急激なリスク拡大を作り出している」
同所長は、この場合、米国政府は1つの重要な要素を考慮していないと指摘する。ロシアとは異なり、中国は、経済が発展段階にあり、軍事力を構築する多大な可能性を有する国だが、米国にとっては、まったく未知で、ほとんど理解できない相手といえる。
ロマノフ所長は、米国政府は自らの声明で中国政府を刺激し、戦略的核ミサイルの能力を高めているだけに、尚更そういう状況になると指摘する。
「島である台湾には、大陸のような国境(軍隊の侵入や武器の輸送、原材料の供給を行うための)がない。そのため、海軍力の問題はこれまで以上に現実的な課題となる。結局のところ、この問題は、海路封鎖の問題とそれに伴う(紛争の一方の当事者の)突破能力に関するものとなる。予想される紛争は、同時に中国を核ミサイル競争へと追い込む。例えば、中国政府にとってまったく好ましくない状況がそれだ。この場合、核があれば敵を確実に威嚇することができる」
この点で注目すべきは、先日、日米首脳が中国に核軍縮プロセスへの参加を共同で呼びかける意向であることが報じられたことだ。
しかし、東京でのバイデン大統領の発言(台湾に関して)により、米国の外交論理はますます複雑化し、弁証法的になっている。このようなレトリック(戦略として)は、一方で中国政府に武装解除を求め、他方で恫喝をしているだけに、機能することはない。さらにそのことは、地域の軍拡と取り返しのつかない結果につながる可能性があると、アレクサンドル・ロマノフ所長は結論付けている。
しかし、地域の安全保障問題に取り組むリーダーであることを、米国(バイデン大統領の来日を受けて)との対話の中で自ら位置づけた日本にとって、こうしたことは同国が望むような目標ではないし、中国抑止でもない。
中国の反応については以下のサイトを参照ください。
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