サル痘がパンデミックになると考える根拠は今のところない=専門家の見解

新型コロナウイルスによるパンデミックから一息つく間もなく、人類の前に、突如、また新たな脅威が現れた。WHO(世界保健機関)の発表によれば、世界12カ国でサル痘の感染例が見つかった。このサル痘は珍しいウイルス感染症で、中央アフリカと西アフリカを中心に見られるものである。5月13日から21日にかけて、92人の患者と28人の疑い例が公表されているが、死亡者は確認されていない。サル痘の市民間での感染拡大リスクについて、欧州医薬品庁は「きわめて低い」としているものの、国際社会ではすでに軽いパニックが広がっている。
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WHOのデータによれば、サル痘を風土病とする国は、ベニン、カメルーン、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、ガボン、ガーナ(動物のみ)、コートジボワール、リベリア、ナイジェリア、シエラレオネ、南スーダンである。サル痘のヒトへの感染例が初めて確認されたのはコンゴ民主共和国(当時はザイール)で、1970年のことである。その後、アフリカの10の国で散発的な感染爆発が見られ、最近では2017年にナイジェリアで感染が確認された。欧州諸国の中で初めてサル痘の感染を発表したのはイギリスである。5月7日、ナイジェリアから到着した航空機の旅客の1人からウイルスが発見された。そして続いて、米国、カナダ、オーストラリア、スペイン、ポルトガル、ドイツ、イタリア、フランス、スウェーデンでも感染が報告されるようになった。コンゴ民主共和国では、2021年12月以降、1200人を超える感染者が確認されている。
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サル痘の初期症状は、発熱、頭痛、浮腫、背中や筋肉の痛み、倦怠感だという。そして、顔や身体に発疹が現れるが、多くは手のひらと踵に見られる。重症化の確率が高いのは、小児、妊婦、加えて、免疫不全の基礎疾患を持つ人である。
しかしながら、WHOが発表している致死率は、医療支援システムがそれほど発展していないアフリカの国々の限られた感染例から算定されたものである。
WHOの情報によれば、ウイルスには大きく分けて2つの株がある。一つは西アフリカ系統群(比較的危険度が低いとされ、感染者の致死率は3.6%)、そしてもう一つは、中央アフリカ系統群(コンゴ盆地系統群)で、こちらの方が危険度が高く、致死率は10.6%となっている。
サル痘とはどのようなものなのか、そしてこれがどれほど危険なものなのかについて、「スプートニク」は、特に危険な感染症に詳しいウラジスラフ・ジェムチュゴフ医学博士にお話を伺った。

「この感染症を引き起こすウイルスは、オルソポックスウイルス属のもので、天然痘の一種ですが、天然痘の感染源はすでに世界には存在しません。天然痘は、集団ワクチンを実施した後に根絶され、現在オルソポックスウイルスを体内に保有しているのは霊長目と小齧歯類だけです。すべての寄生虫には宿主がいて、一生、その中で生きています。寄生虫の唯一の目的は、繁殖と生態分布の拡大です。そのために自然界にはウイルスの変異による進化のメカニズムがあるのです。その結果、変異株が人体に入り込み、その後、ヒトからヒトへ感染します。しかし、サル痘は新型コロナウイルスほど容易には感染しません。ここで大きな意味を持っているのが伝染性、つまり感染量(=個人がウイルスに感染するのに曝露される必要のあるウイルス量)です。天然痘の感染量は小さく、サル痘は高いのです。感染量が高いと、感染者は少なくなります。たとえば、飛沫感染の場合、感染するには、非常に強く息を吐き出し、かなり強く吸い込まなければならないということです。しかし、変異によって、感染量が小さくなると、パンデミックになるでしょう」。

ジェムチュゴフ博士は、2003年、アフリカから齧歯類が持ち込まれた米国で、小規模ながらサル痘の感染拡大が起こったことを指摘している。
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しかし、博士は、今回の場合はウイルスの感染拡大は避けることが可能だとして、次のように述べている。
「このウイルスには、天然痘に対して効果のあるワクチンを適用することができます。1970年代の末までに、世界には天然痘の感染者はいなくなり、ワクチン接種もされなくなりました。しかし、集団免疫は残っており、ワクチンもあります。わたしの考えでは、感染拡大を予防するには、集団ワクチン接種を開始するべきでしょう。いずれにせよ、罹患者と接触する可能性のある人々は多くの国ですでにワクチン接種を受けています。そして現在、多くの国の政府が、ワクチンの製造を開始するか―ワクチンは長期保存が可能なので―あるいはワクチン接種を始めるか思案しているところです」。
この記事を執筆している間にも、イスラエル、スイスでサル痘の感染者が確認されたことが明らかになった。
しかし、WHOの専門家らは、サル痘が、新型コロナウイルスのように移動の制限を必要とするような大々的なパンデミックとなる可能性は今のところ、かなり低いとの見方を示している。
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