経済専門誌 『エクスペルト』のアナリストであるアンナ・コロリョワ氏によると、この(経済の新たな挑戦に機動的に対応するための)対策本部の設置は、現在の世界的問題を受けたものだという。コロリョワ氏は言う。
「日本は、自国が世界経済に深く組み込まれた主要経済のひとつであると考えており、国際政治にも深く組み込まれていると考えています。日本政府は西側諸国の対ロシア制裁に加わりました。したがって、日本は(アメリカやEUと同様に)、この制裁が世界経済にもたらしたエネルギー価格高騰によるマイナス影響を受けています。というのも、1年前は200〜300ドルだったガス価格が、今は1200〜1300ドルになっているのです。発電コストも急上昇し、その結果、その他の商品の価格も上がり、インフレを加速させています。一般消費者は所得から消費により多くのお金をまわさざるを得なくなっています。こうした要因が相まってインフレスパイラルとなり、経済に極めて悪い影響を与えています。」
コロリョワ氏は、逆説的に響くかもしれないものの、日本はつい最近までインフレ(ただし、コントロールできる安定的なインフレ)を目指していたのだとして、次のように説明する。
「この「待望のコントロールできる安定的なインフレ」はかなり厳格な枠の中に収まるものであり、経済成長の裏返しであるため、プラスの影響をもたらします。しかし、日本は過去数十年間、これを追い求め続け、結局達成することができませんでした。追い求めていたのは、GDPと経済の成長に続いて、安定的で適度な物価上昇が起こるというシナリオ、つまり計画的で分かりやすいプロセスです。しかし、今起こっているのは、前例のないエネルギー価格急騰によるコントロール不可能なプロセスであり、しかも、これが世界中で起こっています。」
このコントロール不可能なインフレが最も大きく影響したのは、当然、ロシアのエネルギー資源を必要とする国々であり、もちろん日本にも影響した。しかも、いつになれば価格が下がるのか、明確な見通しは今も立っていない。また、新しいエネルギー資源供給フローの再分配が(ロシア抜きで)どの程度成功するのかも分からないとコロリョワ氏は指摘する。
「経済が極端な乱気流にある中、日本は西側諸国の強硬な地理経済的(反ロシア)路線と自国の経済的利益との間を巧みに泳ぎながら、新しい「陽当たりの良い場所」を見定めようとしています。今の日本では西側の強硬路線に追従する方が優勢で、これが日本経済の抱える問題を増幅させています。したがって、対策本部を設置しても、物価高騰の状況を抜本的に改善することはできません。対策本部の設置は、どちらかというと、国民を安心させるためのポピュリズム的な施策です。政府は無策ではありませんよ、きちんとモニタリングし、分析し、状況の調整を図っていますよ、というシグナルです。」
例えば、アメリカの中央銀行にあたる連邦制度準備理事会(FRB)の決定(とりわけ、政策金利を0.75%引き上げ、1.5〜1.75%とした決定)が日本経済に与える影響をより注視することが想定される、とマスコミは伝えている。しかし、FRBの決定は日本経済に具体的にどのように影響するのだろうか? コロリョワ氏は次のように説明する。
「アメリカが金利に関する決定を行うと、まず影響が及ぶのは、世界市場で大きな位置を占める銀行です。金利が上がれば、世界の金融システムの中のお金の量が減少します。そのため、銀行は国外プロジェクトを含め、各種プロジェクトへの融資を減らさざるを得なくなります。これが世界経済にも反映されます。市場に入ってくるお金が減り、それにともなって、その市場でお金を借りる企業が受け取れるお金も減ります。そのことは、まず何よりも、そうした企業が自社株を売買する能力に影響します。このような状況を説明するための専門用語もあり、金融引き締め政策と言います。この政策では、銀行は自国の中央銀行からより高い利息を払ってお金を借りなければならなくなるのです。」
このようにして、銀行や企業の持つ流動性の高いお金が減っていき、それが日本企業の活動に影響するのである。
高等経済学院の日本専門家で経済学博士のデニス・シェルバコフ氏は、どのセクターがもっとも大きな影響を受けたのか、そして、日本は経済損失を回避しながらこの問題を解決できるのかを教えてくれた。
「原材料価格の高騰の被害を受けるのは、主に製造業と自動車産業です。しかし、消費者物価の高騰と消費者需要の低下が進むにしたがって、日本の商業サービス部門の企業でも問題が起こります。この問題を経済損失なしに解決することはできません。なにしろ、すでに損害は出ていますから。」
それにもかかわらず、今週、日本が(G7各国と協調して)対ロシア経済制裁を強化する意向であることが分かった。そのため、今回の世界経済の乱気流で、最終的な日本の経済損失がどれくらい深刻なものになるのかは、今も予測不可能だ。