中国は、ロシアと異なり、これまで一度もG7に加盟していない(ロシアは2014年、クリミアでの問題により除外されている)。中国経済は現在、日本を抜いて世界第2位の規模を誇っているにもかかわらず、である。しかし、中国の経済発展は米国やその同盟国を喜ばせるどころか、恐れさせ、脅威だと捉えられている。そこで、裕福な西側の民主主義国は、G7およびNATOの首脳会議の中で、中国に対する新たなアプローチについて協議する意向である。とりわけ協議では、そうした懸念や中国における人権問題だけでなく、第3国に対する中国の投資が与える否定的な影響にも注意が向けられることになる。そしてG7加盟国は、中国のいわゆる「経済的な強制措置」に対抗するための努力を活発化させるものとみられる。
これに関連して、高等経済学院、欧州・国際包括研究所所長で、東洋学研究者のワシリー・カシン氏は、米国の懸命な努力にもかかわらず、米国が主導する中国抑止のための連合は明確な境界線を持つものとなるだろうと指摘している。
「中国は最大の貿易高を誇る国です。世界には、中国との関与を持たない独立した連鎖は一つとしてありません。そのため、米国、EU諸国、日本(中国にとっての最大の貿易相手国)は、中国に対抗するために大胆な策を講じることができずにいます。そこで、彼らのできうる努力というのは、長期的な競争を生み出そうとすることに過ぎません。それは、両者の政策に反映されるような発言や声明という形であって、それ以上の何ものでもありません。西側の戦略において、唯一、実際的なものといえるのは、中国における技術的なつながりのあらゆる局面について、追加的な監視を行うという措置だけです。しかし、この措置は中国にとって、効果的なものとなる可能性があります」。
しかしながら、反中国的な路線をさらに進めていく上で、忘れてはならないことがある。それは、中国は、日本が実際に経験したように、自国の外交的利益を推し進めるために圧力をかける方法を持っているということである。
2010年9月、中国は、尖閣諸島中国漁船衝突事件を受け、その報復として、日本向けのレアアースの輸出を全面停止した。日本は必要とする希土類鉱物を主に中国から輸入していることから(中国は世界の採掘量の97%を占める)、中国のこうした措置により、日本の産業の一連の部門が大打撃を受けた。日本企業は生産を縮小するか、あるいは生産費の高騰による製品の急激な値上げを余儀なくされたのである。そしてこのことは、世界市場における日本製品の競争力の低下を招いた。よく知られているように、中国には「遠くの親戚より近くの他人」という諺があり、中国は近隣諸国と良好な関係を築くのを望んでいる。しかしながら、中国はそのとき、日中貿易におけるもっともデリケートな関係を選び、厳しい措置に出たのである。
より弱い国々に対し、喜んで「外交的な強制措置」を取るのが米国である。それを考えれば、2019年に隣国の韓国に対して「半導体戦争」を開戦した日本を含め、他の国々が、そのような説得の方法を用いることは驚きに値するのだろうか。
カシン氏は、しかも日本はますますNATOに接近していると指摘している。
「日本はNATOの主なパートナー国の一つです。公式的にはNATOに加盟はしていませんが、NATOとは確固とした関係を持っています。そして現在、その関係はより強固なものになろうとしています。というのも、NATOは対中国政策において、アジア諸国との連携を活発化しているからです。欧州諸国は、太平洋諸国に本格的な部隊を派遣することはできないのです。一方、米国とその同盟国はアジア太平洋地域の政治、経済において、その行動を大きく一致させる必要に迫られています。そして、通常そうであるように、一番重要な課題は、中国の投資(各分野での影響力の拡大)と技術分野での輸出を監視することです」。
これは一見、純粋な制裁ではないものの、中国がまだ吸えている「酸素を止める」という米国の明確な望みである。そしてこの戦略は、中国が度々非難されている「経済的な強制措置」という戦法よりはるかに厳しいものであるとカシン氏は述べている。
「中国政府は、自国の安全や根本的な国益に対する直接的な脅威があるときに限り、圧力をかけるための手段として制裁を発動しています。たとえば、韓国との関係でいえば、米国が、ミサイル防衛システムを中国領のすぐ近くの韓国領内に配備したのに対したとき、そのような行動に出ました。豪州についていえば、豪州は中国にかなり大きく依存しています。にもかかわらず、豪州は新型コロナウイルスによるパンデミックの発生の原因について、いかなる学術的な根拠もなく、中国を非難しました。このほかにも、豪州がオーカス(AUKUS)の枠内で、米国との軍事協力を活発化させていることは、中国の深刻な懸念を呼んでいます」。
中国による経済制裁が、何らかの場合に深刻なものになる可能性はある。しかしそこには、十分に理解でき、説明できる理由がある。しかも、それが可能となると同時に、それらの制裁は解除されてきた。加えて、中国政府は(米国とは異なり)、体制転換や、(米国にとって)都合の悪い強固な経済に厳しい打撃を与えるといった米国の好む手段に頼ろうとしたことはないとカシン氏は指摘し、
「実際、中国は米国と同様に、独自の経済戦争を起こしています。しかも米国との対立の中で、そうする必要性に迫られていることから、中国の行動はますます洗練されたものになってきています」
と述べている。
そして中国政府は、自国の力を十分に理解しており、よって、日米は強固な戦略敵同盟関係にありながら、日本の外交政策は米国のそれとは本質的に異なっているのである。
「これはクアッドという連帯を大きく弱体化させるものです。というのも、日本はいつも『雨粒の間をすり抜けよう』とするからです。日本政府は中国を抑止したいと考えている。しかし、その一方で、日本は中国との経済協力なしには存在できないこともはっきりと理解しています。つまり、中国がまとまりのない政治的に弱い国家となり、日本が中国と落ち着いて協力を続けられるようにするというのが、日本にとっての『理想的な世界地図』なのです」。
そこで、日本の与党幹部は、米国がいつか自らの外交政策において、中国に対するこうした希望を達成してくれることを期待している。しかし、日本人の多くは、この反中国路線の「報いを受ける」ことを恐れている。カシン氏は、そしてこれは、最終的に日本にとって、良いとは言えない結果に終わる可能性をもつ、奇妙で矛盾した日本の立場であると述べている。
「今のところ、日本は『2重のゲーム』を進めることができていますが、中国に対して厳しい圧力をかければ、再び中国が経済措置を講じてくるでしょう。しかし、日本は自国の産業のための多くの要素や材料に依存しています。ですから日本の生産に影響が及ぼされる可能性は否定できません。さらに、日本のメーカーが販売している多くの製品が中国で生産されています。日本は主要な部品を供給していますが、組み立ては労働力がより安価な中国で行われています。中国には、数千もの生産チェーンが交差しており、中国市場が果たす役割は大きいのです。そして、売上においては、中国の受け取る割合がかなり大きなものもあるのです」。
カシン氏は、中国は当然、このようなことを理解し、モニターしているとし、必要が生じれば、迷うことなく、制裁的措置を講じるだろうと締めくくっている。いずれにせよ、G7の首脳らは中国の投資に代わるものとして、新たなインフラの発案を実現する決意に満ちている。G7諸国の計画では、これは、不透明な契約や負担の大きな融資などに対し批判が集まる中国の「一帯一路」に対抗するものになる。しかし、もしそうなった場合、日本は「2つの椅子に同時に腰掛ける」ことはできるのだろうか?