ウクライナ紛争が長期化し、ウクライナ軍の欧米からの武器供給への依存度がより高まるにつれ、供給国は自国の備蓄の補充に努めるようになる。ウクライナに1400基以上の携帯式防空ミサイルシステム「スティンガー」を供給した米国などは、一部の部品を交換して補填を図る意向だが、それには少なくとも5年はかかる。となると、その間に中国は何の問題もなく台湾侵攻が果たせてしまうことになる。The American Conservativeは、このようなシナリオは中国抑止、台湾防衛という米国の政策の破滅的な失敗を意味すると論じている。
これに先立ち、米軍需製品メーカーのレイセオン社は、「スティンガー」の在庫補充はその電子データベースの一部を設計しなおす必要があるために時間がかかると発表している。
ロシア国立人文大学、国際関係外国地域学部のエヴゲニー・コジョキン学部長はこの状況を次のようにコメントしている。
「軍事機器の備蓄が枯渇というが、これについては忘れてはならないのが、ウクライナが供給を受けているのは最新型の兵器ではないことだ。供給された武器は緩慢ではあっても、途切れることなくロシア軍の手に渡っている。そしてロシア側で詳細に調べられる。それが理由だ。 旧弊な兵器の備蓄はきれていく。だが、それに代わって今度は最新兵器の供給が始まるか否かははっきりしていない。武器がロシアに渡ることが懸念されるからだ。だいたい、米国にも欧州にも、政界、財界にはこの紛争に組みすることは西側の利益から見て不要で無意味だと考える集団はある程度はいる。こうした立場がメディアに堂々と出ることは稀だが、意見の対立は戦線だけでなく、大企業のオフィスや本社にもある。 台湾については、この国を徐々に中国の社会、経済の軌道に引き込む動きが始まっている。つまり、台湾の統合は着々と行われており、中国が軍事的な手段をとってこのプロセスを強制する必要はない」
7月18日、この記事の執筆中に、中国が米国に対し、台湾への武器供給を停止し、軍事上の結びつきを断つよう最後通牒を突き付けたという報道が入って来た。ウクライナへの支援を原因とする欧州の軍備枯渇については、フィナンシャル・タイムズ紙が報じている。記事は、ロシアとウクライナの紛争のおかげ欧州には長期的な軍事的対立への準備が不足していることが露呈したと指摘している。これを受けて現在、EU諸国間の軍事プログラム分野でのより緊密な協力と兵器製造の合理化という提案が出された。
ロシア人軍事専門家のヴィクトル・リトフキン氏は軍備枯渇についてのクレームは軍産複合体がさらに資金を得るために挙げられているにすぎないとして、次のように語っている。
「米国の軍事予算は8000億ドル(110兆1180億円)、ロシアは600億ドル(8兆2600億円)。つまり、米国はロシアの15倍の金をつぎ込み、軍事工場は2〜3交代で稼働し、国際証券取引所の指標も上がる一方。これは、米国には十分な蓄えがあるにもかかわらず、もっともっと必要だということを物語っている。米国はウクライナに古い戦車を送り込み、東欧諸国もそれに倣って、ソ連時代の旧弊な兵器の在庫を一掃した。そして今度は米国は、東欧諸国に自国製の新型戦車を買えと押し付けている。だから、何かが足りないという嘆き節は、米国軍産複合体に利する嘆きに過ぎない」
7月18日、EU理事会は5億ユーロ(704億円)のウクライナへの追加軍事支援に同意した。ウクライナへのEUの軍事支援はこれで5度目で、これまでの4度の支援と合わせると総額25億ユーロ)(3520億円超)に達する。また、EU諸国がウクライナへの武器供給で枯渇した自国の軍備補填用に、武器を共同購入するためのプラットフォームを構築する計画もある。