ある夏の夜、モスクワ中心部にある 聖ペテロとパウロの福音ルーテル大聖堂の入り口は混み合っていた。プログラムを持った100人以上の人たちが、通常は信者が座る教会の長椅子の席を取ろうと急いでいた。会場には映写機で日本の伝統的な風景が映し出され、金閣寺のきらめきが十字架に反射していた。
コンサートが始まる。
© 写真 : Belcanto
«日本との思いがけない出会い»
組太鼓の団体「O-Nami」の芸術監督で創設者のアンナ・リュウさんは、太鼓を初めて見たときのことや、太鼓に惹かれた理由について、スプートニクに語った。
「90年代初頭、私は10代の若者で、中国武術に取り組んでいました。当時、ロシアではビデオライブラリーが人気でした。そこではビデオプレーヤーでさまざまな映画を観ることができました。ある時、忍者に関するハリウッド映画を観ました。主人公は日本庭園を散歩し、太鼓を持っていました。私はそれを見て、すぐに心を奪われました。楽器の名前を書き留めて、モスクワで探したのですが、当時、太鼓について知っている人は誰もいませんでした。その後、カメラマンとしてモスクワ音楽院を訪れたとき、そこで太鼓を目にしました。日本人が音楽院に寄贈したものでした。彼らは自作の演目も贈与しましたが、独学で学ばなければなりませんでした。こうして私は太鼓を始め、音楽院で11年間太鼓に取り組み、2年前に自分のグループをつくりました」
© 写真 : Belcanto
アンナ・リュウさんは初め、YouTubeの動画を参考にして演目を選び、それを自分流にアレンジしていたが、その後、徐々に新しい思いつきが生まれ、アイデアやカタを加えるようになったという。現在、「O-Nami」がコンサートで演じるすべての作品は、オリジナルまたは著作者の許可を得ている。
「O-Nami」は、作家による演目のレパートリーを広げ、日本から機材を取り寄せる計画。なお、日本製の太鼓は高すぎるため、今は中国の工場から購入している。
なぜ太鼓なのか?
「なぜ太鼓が大好きなのかというと、それは、これが音楽であり、しかも非常に古く、シャーマニズム的で、歴史があるからです。軍鼓、寺院で用いる太鼓、また劇場でも太鼓は使用されています。私たちに一番近いのは戦をテーマにしたものですが、宗教的な含みのある演目もあります」
アンナ・リュウさんは、西側諸国では多くのロック・ミュージシャンが教会で演奏しているため、ロックファンのリュウさんにとって教会で演奏する機会は興味深いものだったと語った。
World music
音楽家と音楽ファンたちのために教会で演奏する機会をつくったのは、音楽文化の発展を支援するための慈善基金「ベルカント」の創設者で芸術監督のタチヤーナ・ランスカヤさん。ランスカヤさんによると、「ベルカント」が一番初めに日本をテーマにしたコンサートを開いたときには、モスクワ在住の日本人オルガン奏者の井上紘子さんが出演したという。ランスカヤさんは「スプートニク」に次のように語った。
「基金の方向性の1つであるWorldmusicは、インド、中国、日本、スペイン、その他の国の音楽と演奏家を一つにするものです。私たちは、教会を含むモスクワのさまざまな場所で膨大な数のコンサートを開催しています。かつて日本の音楽は日本人の演奏家のみが演奏していましたが、今は誰でもロシアに来ることができるわけではありません。でも私たちはこの方向性の発展を続けており、尺八のコンサートを開きました。本日は初めて太鼓のコンサートを試しました」
演奏終了後、拍手は長い間鳴りやまなかった。コンサートは成功した。基金は近いうちに新しいコンサートをいくつか計画しており、8月にはプログラム『SAYURI』、9月には日本人アーティストとのコンサートなどが予定されている。