この報道を受け、日本政府はこの特別な問題についてあまりよく理解していないと確信を持って言うことができる。
もし日本政府内に、化学兵器の専門家がいたならば、今回のような制裁は無意味だとすぐに指摘するはずである。というのも、それは化学兵器製造の可能性を制限するようなものではないからだ。日本政府には、このようなきわめて重要な問題について、より深い知識を持ってもらいたいものである。
化学兵器は簡単に手に入る材料で製造できる
ロシアはソ連から、相当量の化学兵器を引き継いだ。その量、39967トンである。
ロシアはこの化学兵器を2017年9月27日までに廃棄するという義務を負ったが、この義務は遂行された。
もちろん、さまざまな種類の化学兵器の製造技術について化学者にはその知識があり、その内容は複数の専門的な文書に詳細に記述されている。
化学兵器の大部分は一般的な化学原料から作られており、また多くの化学工場から出る副産物であった。
たとえば、ホスゲンは一酸化炭素と塩素から、またマスタードガスはエチレンと二塩化硫黄から製造される。
しかも、マスタードガスの製造法は、ソ連の化学者によって開発された冬用のマスタードガスを含め複数あり、またその技術もまったく容易なものを含めていくつもある。
ルイサイトはアセチレンと三塩化ヒ素で、またシアン化水素はアンモニアとメタンで製造される。
これらの材料は簡単に手に入るものであり、大量に製造可能なものである。
たとえば、2020年のロシアのアンモニアの製造量は1960万トン、エチレンは420万トン、2021年の塩素は42万5000トンであった。
つまり、ホスゲン、マスタードガス、シアン化水素といった簡単な化学兵器は、作ろうと思えば数十万トン単位で製造することができるのである。
効果があまりない化学兵器
しかし、ロシアは今後も戦闘行為において化学兵器を使用することはない。それにはいくつもの理由がある。
第一に、ほぼすべての化学兵器には即効性がほとんどなく、また致死率も高いものではない。
これは毒性物質のガスを必要な濃度にまで高めることが難しいことによる。1995年3月20日に東京で発生した地下鉄サリン事件でもそのことは証明されている。
テロリストらは、4.9リットルのサリンを理想的な条件の下で散布したが、それによる被害は、死亡者14人、負傷者1050人と、サリンの効果はきわめて小さいものであった。
次に、第一次世界大戦と第二次世界大戦の部分的な戦いでは、化学兵器はまったくそれを想定していない敵に対する急襲でしか成功しないということが証明された。もし敵がこれに対処する態勢をとっていれば、水に濡らした布を鼻と口に当てるなど、きわめて簡単な防護策で、化学兵器の効果は最低水準にまで下げることができる。
さらに、化学兵器の使用は、その地域の防護やガス放出を行うなど、自国軍の活動の妨げにもなる。化学物質の保護具を身につけて戦闘を行うことは、兵士にとって厳しいものである。
そこで、あらゆる化学兵器の中で、現在なお実際に使用されているのは、クロロセトフェノンなどの刺激性ガスだけである。こうしたガスは警察によって使用されたり、自衛のための装備に備えられている。
こうしたガスは即効性があるものの、その他の化学兵器に比べれば、毒性は低い。
まだ、他の兵器がある
化学兵器を使用しない理由は他にもある。
ウクライナで戦闘を行うロシア軍は従来の攻撃兵器をまだ使い果たしていない。たとえば、非常に効果性があるフガス爆弾はほとんど使用していない。
フガス爆弾FAB250は、致死半径は60メートル、殺傷半径は225メートルとなっている。
また致死半径130メートルを持つFAB 9000も、まだ使用されていない兵器の一つである。これらの兵器は1988年から1989年、アフガニスタン戦争のときに使用され、アフガンのムジャーヒディーンたちを平和交渉に向かわせたものである。
またODAB500のような燃料気化爆弾もまだ使用されていない。これらの爆弾は堅固な建物や要塞を破壊することができるものである。
さらにロシア空軍は、TNT換算で44トンの威力を持つODAB 9000も保有しているが、これは半径100メートル以上の範囲の鉄筋コンクリートの建造物を破壊する力を持っている。
致死半径およそ350メートルのフガス破片焼夷弾FZAB500もまだ使用されていない。
化学兵器と異なり、これらの弾薬は即効性があり、敵を破壊し、圧倒する能力を持っているものである。