【人物】生はちみつに魅せられた日本人女性が届ける、ロシアの自然の恵み「小さく続けることの大切さ」

ロシア・モスクワ郊外の町コロリョフに暮らす日本人女性、佐藤真理さん。ロシア人の夫と結婚したことがきっかけでこの町にやってきた佐藤さんは、ロシアの天然はちみつやイワン茶(イワンチャイ)、希少な森のきのこ「チャーガ」を日本に向けて販売している。扱うのは、佐藤さん自身が魅せられたこだわりの食品ばかりだ。佐藤さんは、日露関係が冷え込む中にあっても、ロシアの大自然の恵みを小さく、長く提供していきたいと話す。
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以前はインドや東南アジアの洋服・雑貨を日本向けに販売する仕事をしていた。今から8年前、インドで出会ったロシア人の夫と結婚しロシアに住むことになった。環境の変化は思ったより大きく、友人もおらず、精神的に落ち込む日々を送っていた。そんなとき、夫の友人がはちみつを差し入れてくれた。その人こそ養蜂家の3代目だった。
佐藤さんが信頼する養蜂家。トヴェリ州で養蜂を営む
ロシアで突然はちみつ好きになってしまう日本人は多い。日本では加熱しているはちみつが一般的だが、ロシアではちみつと認められるのは「生はちみつ」のみ。非加熱だからこそ、はちみつの栄養が失われることはない。佐藤さんは身体と心の回復を実感でき、これまで食べてきたはちみつとはまったく違う食べ物だとわかった。また、生はちみつの中でも、佐藤さんが扱っているのは、完熟はちみつである。

「ミツバチの最後の仕事、つまり羽を使って水分を蒸発させ、糖度が80パーセント位になるまではちみつを濃縮させ、自分の身体から出てくるミツロウで巣箱に蓋をするのを待ちます。それが完熟はちみつです。普通のはちみつよりも販売期間が短く、量は少なくなります。私がはちみつを仕入れている養蜂家は、トヴェリ州の小さな村、手付かずの大自然がある場所で養蜂をしています。そこは気候が安定しないので、農家がほとんどなく、農薬の心配もありません」

巣みつ。完熟はちみつの美味しさが味わえる
佐藤さんが個人向けにロシアの商品を販売しているサイトMaruriGardenをのぞくと、一般的なサイトと比べて商品の種類が少ない。
「はちみつを買うときは養蜂家と養蜂の環境を知ることが一番大事です。本来、お店をうまくやっていくには、あと10種類くらい商品があるのが理想的なので、色々なはちみつを集めてアソートにして売ってはどうかというアイデアもありました。でも、やはり信頼のおけるこの方から仕入れたいという気持ちがあって、やめました。インドの洋服や雑貨を扱っていたときは、大量生産・大量販売で、自転車操業状態でしたが、本物のはちみつは自然のものですから、そうはいきません。天候次第で取れる量も変わります。少ししか仕入れられない年は早々に売り切れになってしまいますが、それはそれでかまわないと思っています」
はちみつ以外には、チャーガを使ったお茶も人気だ。チャーガは白樺の木に寄生し、免疫力増強や抗がん作用、活性酸素除去など、現代人が求める健康効果によって、日本でも注目が集まっている。佐藤さんは、環境汚染のないヤロスラヴリ州北部で手摘みされたチャーガを仕入れているが、もともとチャーガ自体が希少な上に、中国でも需要が非常に高まっているので、量としては限られている。
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ヤナギランの花。花と葉を乾燥させてイワンチャイを作る
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ハーブティーとはちみつのセット
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ミツバチの減少は人間の食生活に重大な影響を及ぼす
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佐藤真理さん
商品のラインナップや在庫は少なくても、佐藤さんの考え方に共感・賛同してくれる人々が、佐藤さんのライフワークを支えてくれている。
「自分がはちみつのおかげで元気になったこともあり、日本の皆さんとはちみつを共有したいという使命感が生まれてきました。ナッツ類や果物など、ミツバチが受粉してくれないと、食べられなくなるものはたくさんあります。本物のはちみつを食べてもらうことによって、ミツバチの保護や、私たち人間の食生活にミツバチが果たしている役割、というところまで思いをめぐらせてもらえたら嬉しいです。
今の日露関係の状況でロシアのものを日本に紹介していくのは難しく、様々な値上がりの影響もありますが、本当に欲しいと思ってくれる方のところに届けられたらと思います。お客様の多くは、ダーチャの文化や、ロシア人が受け継いできた、自然と共生する暮らしと知恵に憧れをもつ人たちです。ロシア人は自然に近すぎて、自分自身がそれに気づいていないと思います。例えばお金がなくても、きのこなど森から季節ごとの食材を持ち帰ってくる等、ロシア人がもともとやってきたことは、日本人には新鮮に映ります。様々な人、そして社会と関わっていく中で、私が何を提供できるのだろうか?と考えると、今の仕事を、小さな規模でも長く続けていこうという考えに至ります。本物のはちみつを届けながら、ミツバチがはちみつを持ってきてくれる、この環境を守っていきたいです」
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