ロシアにおいて、山田さんのように日本の主たる伝統文化すべてに精通する専門家は稀有な存在だ。2008年には、日本文化活動発展への貢献が評価され、旭日双光章を受章している。山田さんがプロデュースする展覧会・華展は毎年行われてきたが、今年は千利休生誕500年と聖徳太子の没後1400年の両方を記念し、茶道がメインテーマとなった。
山田みどりさんと弟子、来場者たち
© Sputnik / Asuka Tokuyama
来場した在モスクワの日本人からは「日本人よりも日本文化に詳しいロシア人ばかり」「こんな情勢でこのようなイベントが開催できたことがすごい。色々あっても、ロシア人が日本文化を愛してくれて嬉しい」「ロシア人の羽織袴姿が凛々しい」といった意見や、表千家と裏千家の茶道が同じ場所で体験できることに驚きの声があがった。茶道でふるまわれた和菓子はかぼちゃをモチーフにしたもので、ロシアの職人の手作りだ。
ロシアに暮らして32年になる山田さん。90年代、ロシア語を学びに来た当初は、食べ物を買うこともままならない不自由な生活だった。「その時は、もともと教えるつもりではなくて自分が勉強するつもりで来ましたし、物がなくても皆と仲良く学生生活を送っていました。自分が我慢すれば良かっただけのことです。90年代を乗り越えたら今の状況は乗り越えられるでしょう、と言われることがありますが、今の状況は当時と大きく違っています」と言う。山田さんはモスクワにおける日本文化を体現する存在として弟子たちの心のよりどころとなってきたが、年齢のことも含め、「明日はどうなるかわからない」という思いを日に日に強くしている。
「弟子たちには、日本文化の花が咲くように根を張ってほしい、一生懸命勉強するように、と常に言っています。弟子の中には指導する資格がある人も数多くいます。
私はこれまで、ロシアで、他流派の先生方がいなくなり、お弟子さんたちがバラバラになった例を多く見てきています。ですから私がいなくなっても、ひとつになって、毎年せめて、これくらいの規模の華展、稽古の集大成である展覧会を皆で開いてほしいと思っています。
国民性の違いだと思いますが、先生がいなくなった後に誰かを立てて、その人を中心にひとつになる、ということは、ロシアではなかなかできないですね。自分の目でもう少し、弟子たちを見ることができれば、という気持ちもありますが、明日のことは本当にわからないと思っています」
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