「マリウポリでは、せめて1日に1度、温かい食事が取れるように炊き出しを行っています。お粥やスープなどをボランティアが調理します。ひとりひとりの人生、生活がとても大事です。どんな政治的意見を持っているか、宗教は何を信仰しているか、その人が何の民族か。私たちの救助活動には、そういったことは一切関係ありません。どんな人でも助けます。命より大事なものなんて何もありません」
シベリアのぬくもり
「私たちは北のぬくもりを届けます。何千キロ離れていても、心の温かさ、思いやりの温かさを届けます。このことは心にエネルギーを与えてくれます。ソ連時代、ユグルの都市はドンバス出身者によって作られました。彼らはここで働き、北の地に根を下ろしたのです。
とはいえ、その理由で、ドンバス支援をしているわけではありません。私たちはシリアにおける人道支援にも参加しました。この支援活動はむしろ、シベリア人のメンタリティというものでしょう。シベリア人、ユグルの人というのは、生きていくために戦うことに慣れています。シベリアの気候が、独自の性格を形成していくわけです。
町と町の間の距離は、日本の方には想像もつかないほど遠いです。スルグト地方だけで、フランスがいくつかすっぽり入ってしまうくらいです。マイナス50度とか60度の中、車で走っていると、日本車でさえ、極寒の中で故障してしまうこともあります。そんな中で助け合いは必須です。
ユグルの人は良い意味で、みんなで自然と戦ってきました。生きていくためには、建設しなければいけないし、石油を採掘しなければならない。ユグルではひとりで生きていけないのです。なのでドンバスで起こっていることも、他人事と思えないのです。もちろん起こってほしくはありませんが、日本で何か起これば助けに行く覚悟です」
連絡先は紙に書いて!
「ガレージから母親を引っ張り出すのを手伝ってほしい、と言われました。聞けば、ウクライナ軍による見境のない攻撃が始まったとき、とにかく早く逃げなければと車で避難したそうです。母親の分は席がなかったので、彼女を救うためにガレージに入れてガレージを閉めた、と言うのです。
場所はアゾフスタリの近くでした。アゾフスタリからは、非常に強い攻撃が延々と行われました。もちろんその母親は、もう生きてはいません。車のトランクや屋根のスペースを活用するとか、やろうと思えば何か方法はあったはずだし、どうしても駄目なら男が残ればよかったのでは。
でも結局その人たちは、誰に助けを求めることもできない、老いた母親を捨てた。この人たちが何を考えているのか、この精神状態は私には理解できないものです」
「私はみんなに言っているんです。携帯に番号が保存してあったとしても、いつデータが消えるかわからないから、メモ帳に書いておいて、と。番号をなくすと捜索の難易度は上がり、何週間もかかります。そして自分の身近な人を捨てないで、と言いたい。
私は、老いた親が残されているのを見るのは辛い。その人たちにはみんな、子どもがいるのです。所在地がロシア領だろうがウクライナ領だろうが、その人の親であることに変わりはないのに、なぜ多くの人が気遣わないのか、疑問に思います」
政治に関わりたくない、しかし…
「マリウポリといえば有名なフェイクニュースがあります。ドラマ劇場です。西側メディアで、1500人もの民間人が殺された、などの報道があった場所です。私たちのスタッフは、非常事態省のメンバーとともに破壊された劇場の片付けを手伝いました。そこからは46人の遺体が発見されました。
特に恐ろしかったのは死臭です。ドラマ劇場周辺の臭いは、とてつもないものでした。しかし遺体は探し尽くしたはずで、どこからこんなひどい臭いが来るのかわかりませんでした。結局、傷んだ魚をつめた箱が大量に発見されたのです。
その後も調査が続けられ、劇場は内側から爆発したことがわかりました。アゾフのロゴが入った書類も発見されました。46人は、言葉は悪いですが、おそらく「埋葬」されたのでしょう。その後、ウクライナは世界中に、劇場に避難した民間人をロシアが爆撃したというフェイクを広めました。
何度も言いますが、私たちは政治に関わりたくないのです。でも、ボランティアのメンバーもニュースを読む中で、自分の目で見たことと全く違うことが報道されていたら気分が良くありません。なぜ全世界が、ウクライナが流しているフェイクを信じているのか?と思います。
私たちは炊き出しをするとき、ウクライナ軍に従軍していたかとか、ウクライナを支持していたかなんて、絶対に質問しません。その人が必要なものを渡すだけです。それなのに、ボランティアに向けて攻撃されたこともありました。ウクライナ軍は、私たちが彼らの親戚に食事を届けているという事実を受け入れたくないのでしょう」
「この大変動、戦争、カタストロフィーが早く終わってほしいです。私たちのミッションは、ドンバス支援だけでなくシベリアの森林火災消火や、コロナ隔離中の独居者支援など多岐にわたります。
戦争とかそういうことではなく、自然と戦うほうがいいです。もちろん自然災害が起こってほしくはないし、それ自体よくないことですが。兄弟が殺し合い人間が人間を破壊しようとしている今よりも、自然を助け、自然を守り、地球を守り、そして人助けするというのが本来あるべき姿。私たちはすべてが終わったら、平和に暮らすことを学ぶべきです」