「地政学的PR」か、それともごく普通の行動なのか?
日本は、ハイテクの国として知られており、(この手続きの安全性に関する)政府の行動を信用しないという根拠はない。とはいえ、放射線に対する恐怖というのは、以前よりはやや落ち着いたとはいえ、今もまだ残っている。今回の発案の裏には、具体的な理由と世界情勢によって引き起こされた一定のPR的な狙いがあると考えるべきであろう。
原子力問題の専門家で、独立非営利法人「アトムインフォ・センター」の所長を務めるアレクサンドル・ウヴァロフ氏は、日本政府がこうした計画を公にしたのは、他でもないPRのために必要なものだからだと指摘する。
「放射性廃棄物が管理から外れるという状況は一般的にあることです。実際、低レベルの放射性廃棄物は、自然界のレベルにまで除染される可能性があり、そうなれば、将来的にはどこででも利用できるようになります。しかし、(日本が)この作業について大々的に発表したということに関しては、これは政府のPRだろうと疑わずにはいられません。その理由は、第一に、日本が、あの恐ろしい福島第1原子力発電所の事故の処理をめぐる問題にうまく対処できているということを世界に示してみせたいということ。
そして第二に、世界のエネルギー危機が高まる中、日本で原子力エネルギー利用への動きが再燃していることです。日本政府は、古い原子炉の再稼働と新たな原子炉の開発を計画しています。つまり、日本では原子力に対する関心が明らかに『活気付いて』います。そこで、日本政府は日本国民に、原子力の安全性を顕示するため、このような決定を下したのだと思われます。除染された土は、日本人が休日に訪れるのに人気の都内の公園で活用できるほど、安全なのだとアピールするためです」
というのも、日本では電気料金が高騰し、日本の人々は現在、かなり厳しい状況に置かれている。また政府は、温室効果ガスに対する基準を遵守するのがさらに難しくなっている。つまり、今回の政府の決定は、ごく一般的な手続きではあるものの、そこには日本の社会における放射線への恐怖再燃を予防するための政府のPRが込められているのである。そこで、アレクサンドル・ウヴァロフ氏は、これは日本政府にとっては「単純な方策ではない」と指摘している。
一方、独立社会統制環境研究所のセルゲイ・グリバリョフ所長は、今回の日本の決定について、それほど楽観視しておらず、まったく別の見方を示している。
時間は安全を保障するものではない?
グリバリョフ氏は、どんなハイテク技術も高価なテクノロジーも、汚染土の除染(放射性物質の除去)を100%保障するものではないと考えている。
「10年と少しという期間は、福島第1原子力発電所の土壌を人間にとってまったく安全なものにするのに十分なものではありません。つまり、今回の日本政府の決定は、国際社会を落ち着かせるための新たなプロパガンダです。日本政府は、そこに日本人以外にも(土壌サンプルを採取する学者を含む人々も)アクセスができることを念頭に置き、これを意図的に公にしたのです。これは、(最大限にPRすることで)『福島第1原発』の事故によって失われた日本の生産物に対する信頼を完全に取り戻すために必要なことなのです。ですから、今回の公園をめぐる計画は、一種のポピュリズム、プロパガンダです。そして(個人的には)、新宿御苑で、実際に事故現場の土が使われるかどうかということには大きな疑問を抱いています」
その根拠として、グリバリョフ氏は、日本政府が実際、国民の健康に対するリスクを冒す用意があるとは考えにくいからだと述べている。
平和な(ゼロエミッション)原子力―原子力の未来
一方、グリバリョフ氏は、今回の計画の主な動機となっているのは、ロシアでも大きな成果を上げている原子力の平和利用に対する新たな関心の波だと指摘する。
「現在のエネルギー危機に置いて、世界が、深刻なエネルギー資源不足に直面した場合、石炭だけ、あるいはグリーンエネルギーの新技術だけでは『事態を大きく変えることはできない』ことを明確に理解したのです。そんな中、ロシア(ウラル)では、原子力エネルギー利用の完全なサイクルを実現するもっとも近代的な技術の開発が進んでいます。これは核燃料を再濃縮するというものです。つまり、事実上、放射性廃棄物を出さずに循環し続けるサイクルを作ることができるのです。当然、このアイデアには研究者たちも注目しています。しかし、日本は今、いわば『福島第1原子力発電所』の事故を招いた原子力分野の古い技術をなんとか『復活させる』必要があります。日本で使用されているのが、米国の古い型の原子炉であることは秘密でもなんでもないのです」
そこで日本政府は、新たな原子力の平和利用に向けて前進するために、できるだけ早く、以前の古い技術が使われていた場所で起きた過去の事故に対する恐怖心を払拭したいのだろうとグリバリョフ氏は結論づけている。