【視点】日本が抱える「エネルギーをめぐるジレンマ」:自らの危険を冒さずに同盟国を助けることはできるのか

© AFP 2023 / Philip Fong福島第一原子力発電所
福島第一原子力発電所 - Sputnik 日本, 1920, 09.11.2022
サイン
もし日本が、国内にある30基の原発をすべて再稼働すれば、欧州をLNG危機から救う「救世主」となることができる。というのも、これらの原発を稼働させれば、3000万トンのLNG相当の電力を発電することができる、つまりこれは欧州で不足しているLNGの量に匹敵するからである。
日本のメディアではこのような野望的な計画が取り沙汰されており、また原発の運転期間が40年から60年に延長される可能性があるとも伝えられている。しかし、エネルギー資源は日本にとっての「アキレス腱」、つまりもっとも脆弱な部分であることから、このような楽観的なシナリオは、一体どの程度、現実的なのだろうか。
またもう一つ、この計画に関連して当然沸き起こってくるのが、なぜ政府はこのような行動を、自国民のために行わなかったのかというものである。
というのも、秋に入る前に、読売新聞は、今年の暖房シーズンは「福島」原発事故後もっとも厳しいものになる可能性があると報じた。その理由として挙げられているのは、液化天然ガスの価格高騰と電力供給の安定に対する懸念など、欧州諸国と同様の問題である。
福島第一原発 - Sputnik 日本, 1920, 08.11.2022
日本 福島第一原発事故の対応費用すでに12.1兆円 賠償額拡大の懸念も
「スプートニク」の取材に応じた多くの専門家らは、短期間で、状況を変える(原子力発電所の再稼働によって)ことができないのは明白だとしている。それが自国民のためであっても、欧州諸国のためであっても、である。

安全第一

そこにあるのは、何より、安全性の問題だと述べているのは、8年にわたって、国際原子力機関(IAEA)の事務局次長を務めたロシア原子力科学教育協会ヴィクトル・ムロゴフ会長である。
「この計画を聞くと、国内の原子炉が稼働を停止していたのが、まるで日本(欧州のLNG危機前に)にエネルギーが有り余っていたからだというような印象を受けます。しかし実際には、原発は、他でもない、安全性を考慮して停止していたのです。というのも、原子炉には、試験プログラムがあり、IAEAの基準があるからです。当然、現在、原発によって発電することは可能です。しかし、日本政府が、欧州の需要のために、自国民の安全を犠牲にする用意があるとは思えません。これが、これまで日本が原発を再稼働してこなかった理由です。消費者がいなかったからというわけではないのです」
読売新聞が指摘しているように(8月末時点)、現在、日本には10基の原子炉があるが、そのうち、電力を生産しているのは5基だけである。
日本、冬 - Sputnik 日本, 1920, 03.11.2022
欧州ではエネルギー危機が迫る中、薪の盗難事件が発生 日本も同じ状況に? 日本政府 節電を呼びかけ

リスク:財政的損失と恐怖心の再来

そこで、日本のメディアが「欧州をLNG危機から救う」という議論の合目的性は、実質上、何の根拠もない。これについて、日本のエネルギー安全問題の専門家であるコンスタンチン・コルネーエフ氏(ロシア科学アカデミー中国・現代アジア研究所、日本研究センターの主任研究員)は、これは経済的、政治的原因によって説明がつくと述べている。
「政治的な面で言うと、岸田首相は、現在、経済分野において深刻な脅威に直面しています。欧州諸国と同様、日本にとっても、『失われた』ロシア産ガスの供給に代わる調達先をすぐに見つけるのは困難です。たとえ、日本が(中国に次いで)世界第2のLNG輸入国であっても、です。基本的にはペルシャ湾岸諸国からの輸入になるため、この方面での問題はなさそうに思えます。しかし、実際には、潜在的な問題があります。第一に、中東の天然ガスは何年も先まで、輸出の計画が決まっているからです。したがって、その天然ガスの一部を取り出し、欧州に『あげる』わけにはいかないのです。経済はそのようには機能していません。しかも、日本が契約違反をすれば(欧州への再輸送)、罰則を受け、莫大な損失を被る可能性があります。第二に、日本はすぐには原発の再稼働を行うことはありません。そこには多くの深刻な原因があります。もちろん、福島原発事故後に生まれた原子力に対する恐怖は今はやや収まっていますが、国民の大部分は、今も、原発の再稼働に反対しています。しかも、これは非常に複雑な手続きなのです。都道府県や自治体政府との長い話し合いと合意が必要となるからです。つまり、原発の再稼働にはかなり時間がかかるのです」
さらにコルネーエフ氏は、エネルギー資源が不足する中、原子力はもっとも頼りになるものであることから、一部の原発の再稼働計画は安倍政権時代にも言われていた点を指摘している。一方、水素エネルギーやグリーンエネルギーはまだ何年も先の、将来的なプロジェクトであり続けている。
西村経済再生相 - Sputnik 日本, 1920, 01.11.2022
日本 7年ぶりに冬の節電要請へ 西村経産相
しかし、日本の30基の原子炉はいずれにしても、再稼働することはないとコルネーエフ氏は確信を示している。

新たな電力:経済は時間を要する

経済(LNGに絡んだものを含め)というのもは短期間で成るものではない。それは欧州を助けるためであったとしても、あるいはそこに政治的な決断があっても同様だとコルネーエフ氏は述べている。
「というのも、新たな電力が生まれれば、国の電力システムに再分配することが不可避です。ガスあるいは石炭でも電力が生産されていることも考慮する必要があります。つまり、大量のエネルギーを、同時に国内で再分配するのは簡単なことではないのです。あらゆる電力システムの課題は、一日、あるいはシーズンのピークを考慮に入れたエネルギーの需要を保障することです。それらを経済部門に『調和』させていく動きは段階的に起こるものです。消費者の消費を考慮し、すべてが詳細に計算され、モデル化されています。これに従い、いくつかのエネルギー源が『ベース』として使われ、その他のエネルギー源はさまざまな事故やその他の不足の緊急事態に備えた『備蓄』となっています。つまり、新たな電力の再分配には数ヶ月かかる可能性があるのです。一方、事実上、欧州では冬がすでに『そこまで』来ています」

再稼働するより、ガスを購入する方が安価である

また、原発の一部(米製の原子炉が使われているもの)が老朽化していることも大きな要素です。つまり、設備の摩耗によって、緊急事態のリスクは高まる一方であるため、運転期間を40年から60年に延長するというのはきわめて困難であるとコルネーエフ氏は指摘している。
「日本で再稼働が行われたとしても、米製の原発の維持にかかる費用(整備と修理)が高くつくことを考慮する必要があります。となると、ガスを購入する方が経済的で、合目的的(より安価)なのです。しかも、日本では、新たな原子力発電所の建設は事実上凍結しています。しかし、もしも(2011年までに稼働が計画されていたものの、事故によって稼働されなかった)3〜4基の新たな原発が稼働したとしても、これは日本全体の経済の規模にとっては大きな意義は持ちません」
コンスタンチン・コルネーエフ氏は、楽観的なシナリオ(14〜15の原子炉の稼働)でも、その電力は、日本国内の電力生産量全体の3〜4%以上にはならないとの考えを明らかにしている。
「サハリン1」 - Sputnik 日本, 1920, 04.11.2022
再編「サハリン1・2」をめぐる状況
日本企業、「サハリン1」ロシア新会社への参画を決定
つまり、日本政府の(同盟国に対する)考えは、崇高なものではあるものの、欧州のLNG不足は、日本の30基の原子炉の助けを受けても解決されるものではないのである。コルネーエフ氏は、なぜなら、日本にとっても、これらの計画は経済の合理性に基づいたものではないからだと指摘する。
また、現在の状況において、日本政府は(欧州に劣らぬくらい)出費を最小化、最適化することに関心を抱いている。しかも、日本にとっての「生き抜くための挑戦」は、常に、欧州諸国よりも高いものであった。というのも、日本は自然災害、気象災害のリスクが高い国だからである。
よって、あらゆるリスクと世界的な不安定さ(エネルギー資源の供給にも反映されうる)を考慮すれば、日本の崇高な意思が、日本人自身の実用性と恐怖心を上回る可能性はほとんどないと言えるだろう。
ニュース一覧
0
コメント投稿には、
ログインまたは新規登録が必要です
loader
チャットで返信
Заголовок открываемого материала