【ルポ】日本人記者が見た実写版「チェブラーシカ」 愛らしく心温まるコメディ映画

ロシアで話題沸騰のチェブラーシカの実写版。1日に公開されたばかりだが、9日時点で興行収入は30.8億ルーブル(約58 億円)以上に達し、すでに露国産映画の歴代最高記録を塗り替えている。残念ながら日本国内では公開されていないが、劇場に足を運んだモスクワ在住のスプートニクの日本人記者がレビューをお届けする。
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原作と異なるストーリー

チェブラーシカはエドゥアルド・ウスペンスキーによる児童絵本作品「ワニのゲーナ」の登場人物で実質的な主人公。1969年の同名の人形アニメ映画が世界的によく知られている(ここでは便宜上、旧ソ連版の人形アニメ映画を原作、オリジナルとして話を進める)。2010年には日本の中村誠監督によるリメイク映画も公開された。
オリジナルの人形アニメでは、オレンジの箱に詰められてやってきた正体不明の生物であるチェブラーシカが、孤独なワニのゲーナと出会い、友情を育んでいく物語だが、今回の実写版のストーリーは異なったものとなっている。
実写版のチェブラーシカの相棒はワニではなく人間で、ロシアの著名俳優セルゲイ・ガルマシュ演じる頑固な「庭師のゲーナ」だ。「ネタバレ」を避けるために詳細は控えるが、彼がチェブラーシカとの出会いを通じて、ある出来事をきっかけに疎遠となっていた娘との絆を再確認し、過去の弱い自分と決別する人間ドラマを描いた作品となっている。
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オリジナルと異なった実写版のチェブラーシカ。はじめは違和感を覚えたが、慣れると「これはこれで可愛い」となる

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セルゲイ・ガルマシュ演じる「庭師のゲーナ」.。作中では相当な頑固爺だ

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古き良きオリジナル人形アニメのチェブラーシカ

大人でも楽しめる子ども向け映画

本作では特に序盤は子ども向け映画らしく、にぎやかで華やかな演出が続く。チェブラーシカが竜巻に飛ばされ、オレンジの実の雨とともにゲーナが住む町にやってくる場面は、ジブリ作品かのような躍動感、スピード感がある。
一方、原作へのリスペクトを感じられる要素が作中の至るところに散りばめられており、オリジナルを知っている親世代だからこそ楽しめるという側面もある。
原作と同じようにゲーナは正体不明のチェブラーシカを動物園に連れて行き、動物博士に調べてもらうほか、悪役としてはオリジナルのいじわるおばさん・シャパクリャクとそのペットのネズミをモデルとした、チョコレート会社社長の大富豪の女性とおつきの補佐役が登場する。この社長は作中で日本の着物風のドレス姿も見せている。
また、チェブラーシカファンなら一度は聞いたことがあるであろう「誕生日の歌」も挿入歌となっている。このほか、ソ連映画の傑作「運命の皮肉、あるいはいい湯を」のオマージュや、子どもには分からない下品なアネクドートをうかがわせるシーンもあり、制作陣の遊び心もみてとれた。
本作は全体としてはコメディ映画の様相を呈しているが、ストーリーが進むにつれ家族愛をめぐる感動シーンも相次ぎ、心温まる大人の映画に様変わりした。「子ども向け映画で泣くものか」と思っていたが、クライマックスに近づくとついにこらえきれず不覚にも涙を流してしまった。ともに劇場に足を運んだ筆者のロシア人妻は、普段は映画やドラマに辛口評価だが、「想定していたよりかなりよかった。子どもだけでなく、大人も退屈せず楽しめる」と珍しくご満悦だった。
昨今の露日関係の悪化の影響もあってか、残念ながら日本での公開の見通しは立っていないようだ。だが、チェブラーシカはロシア文化史に残る傑作であり、日本人の間でも大人気であることは揺るぎない事実だ。近い将来、劇場版なりインターネット配信といった形で日本のファンも実写版チェブラーシカが見られるようになる日が来ることを願ってやまない。
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