岸田は出発前の記者会見で、厳しい安全保障情勢や世界経済の悪化のリスクについて、G7首脳たちに自分の考えを示したいと述べた。日本のメディア報道によると、岸田氏の意向としてはG7首脳との会談では主にウクライナ支援と強硬な対露制裁政策の維持に注力する他、「自由で開かれた太平洋地域」というコンセプトも積極的に推進している。日本は中国が拡張主義的な政策を展開して、地域の現状を乱そうとしていると非難しており、このコンテキストでは、中国封じ込めを狙った共同行動が話題にのぼりうる。岸田氏は、「法の支配に基づく国際秩序を守り抜く基本姿勢を確認することが重要だ」と述べた。また、岸田氏としては広島サミットを目前に控え、「核のない世界」の構築をテーマに掲げて、核不拡散に弾みをつけたい。
歴訪の幕開けは仏から。 マクロン大統領との会談では、ウクライナ紛争、エネルギーおよび食糧安全保障の確保、ロシアへの制裁による圧力、朝鮮半島情勢、核軍縮、気候変動、両国の自動車産業の企業間協力など、国際社会の焦眉の課題について話し合った。現地報道は、両首脳は二国間の国防協力の強化について意見交換し、自衛隊と仏軍による合同演習の実施に合意する意向を示していると報じている。
岸田の次の訪問先は、イタリアと英国。年末12月、日、英、伊の3カ国の首相が次世代戦闘機を2035年までに開発する「グローバル・コンバット・エア・プログラム(GCAP)」を発表したことは記憶に新しい。
英国ではリシ・スナック首相と防衛・安全保障に関する相互アクセス協定を締結する可能性がある。同様の協定を日本は以前、オーストラリアと結んでいた。交渉は最終段階に入り、両国間の軍事コンタクトを促進する文書に署名する準備が整った。この協定により、互いの国での一時滞在のためのビザ取得が免除され、弾薬の輸入も容易になり、共同演習が実施しやすくなる。
岸田首相の歴訪の最後は、カナダと米国で、13日にバイデン米国大統領との会談が予定されている。 こうした訪問がG7サミット議長に義務づけられているのか、それとも岸田氏の個人的な発案なのかについて、スプートニクは中国・現代アジア研究所、日本調査センターのオレグ・カザコフ上級研究員に見解をたずねた。
「岸田氏個人の発案だと思うが、今回の歴訪プログラムもこれからG7各国の首脳を受け入れる側となる政治家の立場から、非常によく構成されている。 今回の歴訪は、二国間関係を総括するチャンスを与えると同時に、来るべきサミットの最重要事項を話し合い、事前に支持を得た彼の立場を明確にし、イニシアティブを紹介するものである。この問題に岸田氏のPR広報室は取り組んだと思う。日本人は重大なイベントに対しても、それを立派にこなし、不意打ちや支障、不一致がないように、常に事前に十分に準備し、細心の注意を払う。岸田氏にとってはこれは、日本が国際問題の蚊帳の外にいるのではなく、逆に、価値観を共有する国々と協力する用意があることを示すチャンスだ...」
岸田氏の渡航の隠された目論見はキエフ訪問となるか、または安全保障上の問題で阻止されるのかだ。日本の首相のウクライナ訪問は2022年、すでに今回の歴訪の前に話題に上っていた。カナダのトルドー首相は、2022年5月に予定外のキエフ訪問を行い、英国の ジョンソン元首相は3度ウクライナを訪問している。そして11月には、リシ・スナック新首相がウクライナを初訪問した。6月に、独のショルツ首相、仏のマクロン大統領、伊のドラギ首相がそろってキエフを訪問した際は、欧米のアナリストはこれをウクライナとゼレンスキー大統領個人に対する「遅ればせながらだが、強力な支援のシグナル」と評価した。 12月には、バイデン米大統領がゼレンスキー氏を米国に招き、豪華な支援を堅く保証してくれた。こうなると岸田氏はG7の中では唯一、ウクライナを訪問せず、宇大統領とも面どおししていないことになる。
1月4日、ウクライナ大統領府のアンドレイ・イェルマク長官は、ゼレンスキー大統領を代表し、岸田首相の「ご都合のよい時期」のウクライナを訪問されるよう、招待状を駐キエフ日本大使に手渡した。
1月6日、岸田氏はゼレンスキー氏と電話会談し、冬季のウクライナを支援すると約束。会談後の記者会見でウクライナ大統領から招待を受けたことは確認したが、「現時点ではなんら決まっていないが、諸般の状況を踏まえ検討していきたい」とだけ述べている。
カザコフ氏はウクライナ訪問が実現されれば、岸田氏にとっては強力な「大手」となるとして、次のように語っている。
「特に、日本での首相の評価があまり高くないことを考えると、こうした歴訪は、勇気と決断力のある政治家としての彼のイメージアップにつながるだろう。 キエフ訪問が成立すれば、ゼレンスキーにとってこれは日本の支援と同様、とても重要だ。私は歴訪中、極秘で訪問することもありえると思う。 何しろ、日本では『安全第一』が全てに優先する。これは、安倍首相の暗殺後、特に重要な意味を持つようになった。 このため、どんな場合においてもそうした訪問が事前に公表されることはない。 問題は、首相自身のシークレットサービスとNATOの指導者がどこまで日本の首相の安全を保証しているかだ。 密かに計画されていたとしても、訪問が土壇場でキャンセルとなることもありえる」
ところで広島でのG7に日本はゼレンスキー大統領を招待する意向だ。ゼレンスキーはオンラインでこれに参加するよう提案されている。