【視点】海自の護衛艦いなづま 理想的な条件の下で起きた衝突事故

2023年1月10日の午後、海上自衛隊の護衛艦「いなづま」(DD-105)が山口県周防大島町沖(広島から南へおよそ55キロ、松山から西へおよそ30キロ)で座礁した。
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これまでに明らかになったところによれば、船は損傷し、現場周辺では大きな油漏れが確認されている。また伝えられているところによれば、船は自力での航行が不能となり、タグボートで引航されたという。海上に油が大量に広がっているということは、燃料タンクが損傷したことを証明するものである。そしてこれは、船体、少なくとも船尾部分が海底の岩などに強く衝突したことを意味している。またスクリューが損傷したということは舵も損傷した可能性がある。というのも、舵とスクリューは近くに位置しているからである。
NHKが放映したヘリコプターからの映像を見ると、船から水流が上がっているのが見えるが、これは排水のポンプが作動しているとみられる。岩礁との接触により、穴ができたのだろう。もしそうであれば、船体はかなりの損傷を受けており、自力で基地に辿り着くことはできない。また陸に引き揚げられてからも長期にわたる修理が必要となるだろう。
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熟知した海域を航行していた高性能の護衛艦

この護衛艦は2000年3月に就役したもので、新しいものではない。かといって、事故原因が船の老朽化であるというほど古いものでもない。船は22年にわたり、多くの海上軍事演習や作戦に参加してきた。2011年、2014年、2016年には、アフリカ東部のソマリア沖アデン湾で、海賊対処活動にも参加したほか、2022年2月には、米海軍の空母「エイブラハム・リンカーン」(CVN-72)と共に、演習に参加した。「いなづま」が参加した作戦や演習はこれ以外にもたくさんあり、ここに挙げたのはそのほんの一例に過ぎない。護衛艦は第4護衛隊に属し、呉を母港とする「かが」(DDH-184)をエスコートしている。就役の2000年以降、これまでに17人がこの「いなづま」の艦長を務めたが、これはほぼ1年に1度、艦長が交代している計算になる。そのほとんどの艦長は、その後、出世し、ほとんどが司令部での役職に就いている。現在の艦長である相澤一実氏は2022年9月に就任したばかりである。相澤氏は、司令部の役職から艦長となったが、これは今後のさらなる出世を目的としたものと思われる。上記のあらゆる情報から、「いなづま」はけして性能の悪いものではないことが分かる。
逆に、「いなづま」は、日本の海上自衛隊の旗をつけて、遠路航行や演習に頻繁に参加するという栄誉を受けた海上自衛隊の模範的な船に数えられている。加えて、性能の悪い船に、他の艦をエスコートさせることなどないということも強調しておく必要があるだろう。
というわけで、このような護衛艦が、海上自衛隊が十分に知り尽くした海域で座礁するというのは考えにくいことである。日本の護衛艦は、これまでに数えきれないほど、周防大島を横切ってきた。西あるいは南から、日本海あるいは外洋から呉基地に戻るとき、海自の船はこの島を迂回することになるのである。つまり、海上自衛隊の船の艦長や操縦士は、この海域を詳細に知っているはずなのである。

理想的な条件下で起きた事故

しかし、驚くべきことが起きたのは明白である。性能の良い日本の護衛艦が、まさに熟知した海域で座礁したのである。では、なぜこのようなことが起きたのか推測してみたい。
まず1つ目は、多くの事故は、経験を重ね過ぎることによって起こるということ。熟知しているはずの周防大島に接近していた護衛艦の航海当直は、船員が備えるべき慎重さを持っていなかったのである。おそらく、ルーティーン化した呉基地への接近を行う際に、予測不能なことがあるなどと予測しなかったと思われる。
2つめは、内海というのは狡猾で、干潮満潮、水流、風などが複雑に組み合わさり、航行状況をあっという間に大きく変えてしまうということ。たとえば、呉では、もっとも下がりきった干潮時の水位ともっとも高くなった満潮時の水位の差は3メートル半にもなる。これに対し、「いなづま」の吃水は5.2メートルである。つまり、満潮のときには難なく航行している船も、干潮時には座礁する可能性がある。
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3つ目は、正確にいつ衝突が起きたのかが明らかにされていないということ。最初に事故の報道があったのは、日本時間の17時ごろであった。映像を見れば、事故は昼間に起きたことがわかる。太陽を背に向けた船体の上部から伸びた陰が長いことから判断して、太陽はすでに沈みかけているように見える。日の入りが17時18分であったことから、動画はおそらくおよそ16時ごろ、あるいはもう少し遅い時間に撮影されたのだろう。言い換えれば、座礁事故が起きたのは15時から15時半の間である。こうした結論は動画分析から導き出されたものである。海上自衛隊の司令部が発表すれば、より正確なことが言えるはずである。
4つ目はこの海域でこの日の最大の満潮は12時01分、最大の干潮は18時07分だったということ。潮差は2.5メートルで、吃水のほぼ半分である。理想的な状況である。海は穏やかで、波はほぼなく、太陽も出ており、視界も良好であった。航行海域も熟知した場所である。しかし、船は座礁した。
このような条件の下でこうした事故が起こるとしたら、その理由は、不注意によるものでしかない。引き始めた潮がまだ最低のレベルには達していないと考え、また自身のルートの知識を過信した航海当直は、島に近寄り、浅瀬の岩に近づきすぎたのである。おそらく、同様のことがこれまでにもあったはずだ。もし護衛艦が呉基地に向かっていたとしたら、航海当直は、暗がりの中での係留を避けるため、日没までに戻ろうと急いだ可能性は十分にある。しかし今回は、深さが50センチほど足りなかったのだろう。
つまり、この事故から言えることは、海というのは、一見、穏やかに見えても、常に危険なものであるということを忘れてはならないということである。
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