【人物】ロシアで楽しむ日本童話の世界 合気道をきっかけに日本に魅せられた人気イラストレーター

モスクワ中心部にアトリエを構える人気若手イラストレーターのアンナ・ホプタさん。ホプタさんが挿絵を手がける本は毎年6冊のペースで出版されている。日本をテーマにしたイラストは、ホプタさんの主なテーマのひとつだ。ホプタさんは合気道との出会いをきっかけに、芸術家としての第一歩を踏み出し、イラストレーターとしてのキャリアを確立した。売れっ子になった今でも、自分の原点となった日本とのつながりを大切にしている。
この記事をSputnikで読む
2016年夏、東京とドイツ、そしてロシアの合気道のクラブがモスクワで武道研修会を行うので、それを本にまとめてほしいと依頼を受けた。東京大学、ハイデルベルク大学、モスクワ大学の学生たちが、ロシアで過ごした日々を文とイラストにしたものだ。
自費出版した合気道合宿の本。ホプタさんが挿絵を担当
「その本は、芸術的な要素を盛り込んだルポルタージュでした。すごく短い時間で仕上げないといけなかったので、今だったら多分引き受けられません。この本を手がけた後、合気道に魅力を感じて自分でも合気道を始めたんですよ。次作は、合気道をテーマにした日本のお話にイラストをつけました。それも最初の本と同じように自費出版でしたけど、初めの2冊の本が日本に関係したものだったことは、何か運命的なものを感じます」
ホプタさんは翌年、合気道の選手らと日本を訪れた。1日に3度の稽古があるというハードスケジュールだったが、稽古と稽古の合間には合気道のイラストを描き、モスクワに戻ってからシリーズ物として完成させた。
合気道の稽古に参加するホプタさん
本格的にプロとして活動を始めてからは、様々な絵本を手がけた。物語は19世紀の英国が舞台だったり、昔のロシアだったりと色々だった。あるとき、大手出版社から日本の童話や昔話、伝説をまとめた本「十夜」の挿絵を描かないか、と提案された。
浮世絵や版画のスタイルをモチーフにしたイラストは、自分でも驚くほど早く描くことができた。どのような要素を織り込んで構図にするか、次々とイメージが湧いてきたという。ただし、細部には気を配った。例えば着物からのぞく登場人物の素足は、どちらの方向を向いているべきか、たくさんの日本の版画を見ながら比較検討した。最終的に、この本のために47枚の挿絵と10の目次用イラストを描き上げた。
「もともと、絵を描くときに中央に余白を残すのが好きでした。私はそうするのが好きなので自然とそうしていただけですが、ある時、日本の伝統絵画では余白は「心」でふさぐ、そのためにあえて余白を残していると本で読み、それはこれまで私が感じていたことに、とても近いと思いました。合気道をやっていたときも、その哲学性が私に合っていたのです」
1 / 3
「十夜」の挿絵の一部
2 / 3
自宅内のアトリエと「十夜」のイラスト原画
3 / 3

「十夜」の初版本と愛犬マサ

「十夜」をやり遂げた後は、エジプト神話や、ギリシャ神話のシリーズ物など、大きな仕事のオファーが舞い込んできた。それらの作品を見ると、同じ人が描いたとは思えないほど異なったスタイルである。ホプタさんが大事にしているのは、芸術家としての自分流を貫くことよりも、絵と文章との完璧な調和だ。
「芸術家の中には、自分のスタイルを確立して、何を描いても自己流に表現する人もいます。でも私は、先に文章があった上で、読者がそのシーンを想像し、本の世界観やイメージが浮かび上がってくるように、挿絵を描きたいと思っています。例えば十夜であれば、文章も伝統的なスタイルですから、読者が日本文化の世界にどっぷりと浸かれるのが良いと思うんです。ある意味、自分というものを隠します。十夜において私がやったことは日本文化の体現であり、文章の横に当然あるべきもの、を描いたつもりです」
ホプタさんは懐かしく日本を思い出す。稽古の合間に食べたおにぎりが美味しかったことや、多くの道場を回ったので移動が大変だったが、いつも元気に満ち溢れていたことを笑顔で話してくれた。
「日本では、あらゆる場面で互いが敬意を持って接していることがとても気に入りました。私の気持ちもすぐ日本に適応しました。私のとても大きな夢は、日本に行って十分な時間をかけて、都市の風景を描くということです。東京で訪れた公園の、小さなため池の一つ一つまでが、私にインスピレーションを与えてくれるものでした。合気道の合宿では東京しか行けなかったので、もちろん、都会ではないところにも行ってみたいです。私たちの文化は表面的には大きく違って見えますが、ディティールは異なっても、なんだか深いところで繋がっているように感じます。日本に戻れる日が来ることを願っています」
関連ニュース
【特集】詩人で翻訳家のアレクサンドル・ドーリン:長年、日本のあらゆるジャンルの詩歌を網羅しようと努めてきた
モスクワで国際武道フェスティバル開催 日本文化に親しむ家族連れでにぎわう
コメント