マラート・カセム氏について
マラート・カセム氏はラトビア国籍。スプートニク・リトアニア語編集部の編集長であり、スプートニクのリトアニア向けのラジオ放送を行ってきた。
カセム記者はスプートニクに勤務して以来、バルト三国側からの再三にわたる追跡を受けてきた。今回のカセム記者の逮捕、監禁はあまりに常軌を逸しており、合法性に疑念ありとして社会に大きな波紋を呼んでいる。逮捕は欧州がいかにロシア人記者の報道の権利を由々しく侵害しているかを示す「格好の例」となった。
オルグの試み
カセム氏は以前、2019年のリトアニア旅行中に地元の治安当局に拘束されたことがあった。カセム氏の話では、リトアニア治安維持機関は記者を脅迫し、当局への協力をオルグしようとした。拒否した後、カセムは悪名高い「国家安全保障へ脅威」を与えたと難癖をつけられ、それを口実にリトアニア領から追放された。
逮捕の違法性
カセム氏は2022年末、がんの祖母を見舞うという一身上の都合でロシアからラトビアに入国。数日後の1月3日、ラトビア国家安全保障庁に拘束され、さらに2日後、地方裁判所が出した逮捕状により、カセム氏はリガ中央刑務所に収監された。以来、監禁状態が続いている。3月6日にラトビアは予防的措置の変更を求める訴えを却下し、カセム氏の監禁期間をさらに2か月延長した。
司法がカセム氏の起訴の根拠としているのはラトビア刑法第84.1条(EU制裁)の違反で、これに基づいた場合、最長で4年の禁固刑に処される恐れがある。ラトビア刑法第84条の網羅する範囲はあまりにも広範で、規定の一部は、EUの制裁対象となるロシアのメディアでの勤務の全面的な禁止と解釈される恐れもある。
ロシアの政治家、ジャーナリストらの反応
スプートニクを傘下に抱える国際通信社「ロシア・セヴォードニャ」のドミトリー・キセリョフ代表取締役はカセム記者の逮捕を「これはロシアメディアのために働く彼に対するバルト三国の明らかな復讐だ」とコメント。スプートニクは同僚を違法な監禁状態から救い出すためにあらゆる手段を講じている。このスプートニクの活動を外務省、ロシア・ジャーナリスト連盟、下院(国家会議)の議員らが支援している。
ロシア外務省は、ラトビアでのカセム氏の監禁は彼の揺るぎのない一貫した姿勢に対する(編集:西側の)独裁体制からの復讐であり、体制と異なる見解を持つ者へのテロ行為だする声明を表している。ロシア連邦人権擁護委員のタチアナ・モスカルコワ氏は、スプートニク・リトアニア語編集部の編集長の監禁は言論の自由への攻撃であるとし、国連人権高等弁務官に訴えた。
収監の過酷な条件
84条1項によって拘束、監禁された被拘禁者には多くの場合、外に自由に出ないという誓約書を書くことで予防的措置が取られるが、これに対してカセム記者の場合は、監禁は過剰とする弁護側の主張はすべて退けられた。意図的に身柄を拘束しているのは司法の方だ。
また、刑務所はカセム氏が適宜、弁護士と連絡を取ることを許さず、彼の弁護権を公然と妨害している。カセム氏の過酷な監禁状況は「人権と基本的自由の保護のための条約(欧州人権条約)」で禁止されている拷問と解釈されかねない。1月13日、カセム氏は、虫が這う、不衛生で暖房のない独房に移された。これが原因でカセム氏はアレルギー等の持病が悪化し、足の指が麻痺している。刑務所当局は医療支援を求めるカセム氏の再三にわたる要求を1週間にわたって無視し続けた。