正確なデータなしに、学術的な予測は立てられない
「放射能の安全性というテーマをめぐっては、さまざまな推論があります。たとえば、チェルノブイリを海洋に放出しても、人類はこれに気づきもしないというものがありますが、実際のところ、その被害がどのようなものになるのかは、それが行われる場所における、具体的な量、具体的な有害物質の分解に左右されます。
こうしたデータを数値で見る必要があるのです。具体的にどれくらいの量をどのくらいの水量に放出するのか、そして具体的にどこでそれを行うのかという詳細です。海洋放出について分析を行い、具体的な予測を立てるにはこれらすべてが必要です。こうしたデータを目にすることなく、処理水の海洋放出による世界的あるいは国内での結果、影響について予測を立てることには意味がありません。それは本質として、「コーヒー占い」のようなものになってしまいます。なぜなら、問題はきわめて客観的かつ時系列で見る必要があります。福島第一原発から1キロの地点ではどのような害がもたらされるか、原発から100キロ離れた海域ではどのような影響が起こる(あるいは起こらない)かを調べなければなりません。
つまり、その影響や被害は、具体的な学術的データによって、まったく変わってくるのです。なぜなら、処理水は1000キロメートルにわたる範囲に広がると考えられていますが、実際には広大な海域で1000キロメートルもの距離を移動しながら放出を行うわけではありません。放出は沖から100メートルあるいは最大でも1キロメートルの地点で行われるでしょう。ですから、この作業には必ず研究者や環境学者を参加させる必要があります」。
漁業への打撃
「福島県の沿岸線は北から南に延びており、福島の海は寒流と暖流が交じる潮目に位置しているため、水産物が豊富で、漁業や水産加工業が発達しています。つまり、漁業と水産加工は福島の人々の重要な収入源なのです。汚染水の放出は福島およびその近隣地域の漁業の発展に直接的な影響を及ぼすでしょう。第一に、その影響は国民の生活状況と収入に及びます。環境への害については言うまでもありません」。
悲劇的なことは起こらない、国の援助がある
「日本では、実際、何らかの事情で、否定的な影響を受けた人々に対する損害賠償制度というものが広く普及しています。その支援は、外からの影響により、何らかの損失を被った企業に対しても行われています。企業の資金繰りを助けたり、倒産から救い、企業の以前のように立て直すのを支援するというのは、日本においてはまったく普通のことです。しかも、日本ではごく一般的に行われていることです。日本の財政システムではこのような支援策が行うことが可能なのです。
日本の戦略は、今、そうした企業を助ければ、明日、国に利益をもたらしてくれるという考え方のものなのです。ですから、福島の漁業が衰退するなどという問題は起こりません。とはいえ、多くの人々が事故の後、避難を余儀なくされたことから、こうした市民の問題は解決する必要に迫られるでしょう。しかし、人々も次第に戻りつつあり、少しずつ復興は進んでいます」。
「安全な漁業」は危機に陥るのか
「福島とクリル諸島(北方四島)とは何の関係もありません。ですから、この問題は互いに何の影響も及ぼしません。これはまったく異なる地域です。露日関係において漁業に関するテーマはかつては相互に利益のあるものという位置付けでした。福島と何らかの関係があるとしたら、ただ1つ。それはもしも、福島県での漁業が完全に復活すれば、事実、北海道で操業している企業が被りうる損失を部分的に補填できるかもしれないという点です。国全体の捕獲量が増えるからです」。
信頼を失うリスクはあるのか
「福島の処理水の海洋放出についての提案が日本で初めて明らかになったとき、反政府的な機運が高まりました。2月19日付けの日本の「毎日新聞」に掲載された世論調査の結果によれば、汚染水の放出に関する政府の決定について、回答者の62%が、説明不足だと考えていることがわかりました。
政府の説明で十分に理解できたと答えたのはわずか20%でした。また東日本大震災から12年目を迎えた3月11日、多くの日本人が、東京電力本社や首相官邸の前に集まり、横断幕やプラカード、チラシを手に、処理水の海洋放出に対する抗議をおこなっているのを目にしました。こうした出来事は、日本政府の決定が支持されていないことを物語るものです。もし、この決定を今後も主張し続ければ、政府への支持率はかなり低下するでしょう」。
受け入れ難いのは精神的ダメージとイメージダウン
「福島第一原発の事故は日本人のメンタリティーにとっては到底受け入れられない影響を引き起こしました。なぜなら原子力にまつわる事故が起きたからです。日本人というのは、自分の国のステータスというものにとても敏感なのです。
それは『原爆投下』という経験をした唯一の国だからでしょう。福島の原発事故は国民にとって新たな『原子力のショック』となりました。しかも福島の悲劇は観光をはじめとする日本経済にも大きな打撃を与えました。それまで日本は常に、安全な国と考えられていたのです。それが突然、被曝を恐れて、多くの観光客が日本から離れていきました。これも大きなショックを招きました。そして『福島第一原発』事故後のこうした否定的なイメージは今も、そして今後も続いていくでしょう。事故で発生した問題がすべて取り除かれるまで、です」。
福島の問題は、国内問題から地域問題へ
「なぜなら日本の行動は、単なる国内問題としてではなく、国際的な意味でも評価されているからです。特に、日本との関係において何らかの不満を持っている国はそうでしょう。そうした国々は、福島の問題に常に注目することになります。処理水の海洋放出に関する問題が出てきた今、この問題が主要なものになっていく可能性も除外できません。とはいえ、この問題はきわめて科学的なものです。研究者たちは、地域の沿岸部の環境にどのような被害がもたらされるのかについて、明確な解答を出す必要があります。日本はこのことを十分理解しています。そこで、自国にとって、また日本の漁業にとって、最大限に正しく、最大限に安全な方法をとるでしょう」。
「つまり、海洋放出の監視に関する機関との交渉は、きわめて政治的なものになっています。日本は、この決定について、否定的な見方が多いことを認識しています。ですから、日本政府はこの問題について、IAEA(国際原子力機関)や世界の原子力の専門家と緊密な協力を図っています。一方で、このプロセスにおいて、この問題に対するそれ以外の影響を避けようともしています。特に政治分野での影響です」。
投資は不透明だが、制裁は十分あり得る
「つまり、これは将来的な日本の発展に多大な影響を及ぼします。中国は、日本に対し、すべての国の法的利益を認めさせ、自国の義務を善意を持って遂行させ、国際的な厳しい監視を行わせ、なおかつ放射能に汚染された水を、科学的な方法で、オープンで透明かつ安全な方法で廃棄するという責任を負わせるため、国際社会と協力を続けていく必要があります。
また同時に、中国は、周辺海域のモニタリングを強化し、海洋放出が実際に行われた場合の緊急事態に備えた計画を練る必要があります。潜在的に、中国の漁業者も被る可能性がある被害について言えば、中国は国際司法裁判所に訴えを起こし、日本政府から然るべき賠償金の支払いを要求する可能性は十分にあります」。