もともと料理が大好きな大田さんは、ロシア人の夫はもちろん、家に遊びに来るロシア人の友人たちに日本料理をふるまってきた。その数あるレパートリーの中に、総菜パンもあった。手作りのツナマヨコーンパンやカレーパン、コロッケパンなどはお客さんから大好評。「これは売るべきだよ!」との声が高まっていた。
「ロシアには、ピザとか、ソーセージをはさんだパンはありますが、日本にあるようなお惣菜パンってほとんど見ないですよね。最初は家で焼いているだけでしたが、ロシアの皆さんに手軽に食べられる、こういう美味しいものがあるんだよ、ということをもっと知ってもらいたい!と思うようになりました。しかもロシアにある材料のみで作ることができます。ロシアはとても食材が豊富な国ですから、普段の料理を作る時も、ロシアの食材を生かしています」
かわいい!ハリネズミパン
© 写真 : Vladimir Kulakov
クラコフさんは、大田さんから日本語を習っており、とても流暢に日本語を話すことができる。高校生の時には自作のケーキをクラスメイトにふるまったり、趣味でお菓子を焼いたりと、何かを作ることが好きだった。パンを焼き始めたきっかけについてクラコフさんは「日本旅行で、浅草に行きました。そこでメロンパンというものを初めて食べて、とても美味しかったので、これをロシア人にも紹介したいと思いました」と話してくれた。IT技術者という職業柄、自宅でパンを作る時間を確保できることも大きかった。
そこで日本語の教師と生徒という二人がタッグを組み、昨年末頃から、ベーカリーをオープンするという夢ができた。大田さんが総菜パン、クラコフさんが菓子パンと和風スイーツという風に役割分担することにした。クラコフさんはたい焼きやどら焼き、大福なども作れるのだ。
ウラジーミル・クラコフさん
© Sputnik / Asuka Tokuyama
まずはロシア人の好みを把握するため、身近な人や知り合いを通じて、注文を受け付けることにした。武道に親しむ子どもたちにたい焼きを作ったり、バレーボールチームのためには、バレーボールのデザインにしたメロンパンを焼いた。これは3月8日の国際女性の日に、男性からのプレゼントとしてオーダーを受けたものだ。また、ゴマとレーズンでデコレーションしたハリネズミパンなど、目で見て楽しめるパンもある。筆者が試食させてもらったオニオンベーコンパンは、まさに日本のパン屋さんの味。ロシアの白いパンは日本人の感覚からいうとパサパサしがちだが、ロシアの小麦粉でこれだけのふわふわ、しっとり食感が出せるのに驚いた。
クラコフさんお手製どら焼き
© 写真 : Vladimir Kulakov
本格始動するにあたって2人は、価格やメニューの詳細を検討中だ。最初は実店舗をもたず、バラシハ市にある製造拠点から直接、モスクワと近郊都市にパンを宅配することから始める。コロナ以降、モスクワでは宅配システムが非常に発達しており、手軽に活用できる。
まだ準備中にもかかわらず、この数か月の間にパンを注文した人たちの間で、口コミで評判が広がり、注文が入ってくるため、前倒し営業している。モスクワ近郊在住の方はこちらのホームページにある電話番号から注文できる。クラコフさんたちは「まずは小さく始めて、ゆくゆくは店舗を持てるようになればいいですね」と話している。
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