調査団は6月2日までの滞在期間中で原発の状態を調べ、後日、放出の安全性を確認するための報告書を発表する。
放出を懸念する国内外の声
日本政府の処理水放出計画が明らかになって以来、原子力市民委員会などの市民団体は、政府が貯蔵施設ための追加用地を設けるか、別の処理方法を検討するよう要求してきた。また処理水を海に循環させるという発想に環境保護団体も猛反対している。また、漁業者も「魚が市場に出回りにくくなる」「魚の産地について、いわゆる 『風評』が生まれる」といった懸念の声をあげている。これについては日本政府は昨2022年8月末、漁業関連者を支援する基金の設立を決定したほどだ。
低濃度の放射性汚水を捨てるという決定は日本の近隣諸国、特にロシア、中国、韓国に抗議の嵐を巻き起こした。特に批判が集中したのは日本が近隣諸国と協議を行わず、一方的にこうした決定を下した点だった。近隣諸国はさらに、日本がすべての国際基準とプロセスの透明性を遵守することを要求した。
原子力分野の専門家でポータル「アトムインフォ」を率いるアレクサンドル・ウヴァロフ氏は、IAEAには意思決定権がなく、あくまで日本政府の要請で問題解決の、ひとつの選択肢、または別の選択肢を評価するのみであることを忘れてはならないと釘を刺している。
「日本もこれを利用して、専門家からの批判に対しては、原子力の平和利用の安全性に関してIAEAは一番権威のある組織であり、その評価に全面的に信頼を置いていると言っているわけです。実際、この問題は実に切実です。この処理水はどうにかしなければならない。あまりにも大量に溜まってしまっており、保管先を考えるか、何らかの方法で処分しなければなりません。 なぜなら、大地震でも起きれば、漏れ出して放射能汚染が広範囲に及ぶ危険性があるからです。 もしかすると、問題解決のために日本人が海洋投棄以外の方法をすべて拒否するのも間違っているかもしれません」
ウヴァロフ氏は、100万トン以上の処理水の世界海洋への投棄の危険度は、その中のトリチウム濃度のレベルによると指摘している。トリチウムが脅威となるのは藻類や魚類などの生物学的構造と結合した場合のみで、ウヴァロフ氏は125万トンという水の量は、世界海洋にとっては微々たる量であり、低濃度のトリチウムであれば、ただ溶けてなくなってしまうと言う。
主な問題は、浄化レベルの発表された数値ではなく、実際の数値であり、誰にこのタスクの技術的実行を託すことができるかということにかかる。ウヴァロフ氏は、福島問題ではこれまでにすでにミスが生じている事実を指摘している。
「規定値まで処理された水の放出は、環境保護論者が心配するような脅威にはなりません。ただし、何か問題が起きれば、事態は危険な方向へ向かいかねません。ここで2つ、見過ごせないことがあります。ひとつは、この問題が政治的な取引に悪用されることです。中国やロシアは、日本が露中の専門家を議論に参加させず、IAEAの判断だけを頼りにしていることを非常に嫌っています。 ふたつめは、心理的な認識の問題です。世界海洋へ放射性廃棄物が投棄されていることは、どんな場合も、どんなに洗浄されていたとしても受け入れがたいことです」