同紙は次のように指摘している。
「ウクライナ紛争とロシア産ガスの供給拒否。気候変動の影響や新型コロナウイルスのパンデミック。移民の流入やクレジットの高騰。EUは過去、同時にこれほどの試練に直面したことはない。しかも、この危機的状況の終わりを予言するものはいない。むしろ、状況は悪化する一方だ」
複合的な危機は長期的な性格を帯びており、EUの財政能力を凌駕している。予備費はほぼ使い切り、残っている数十億ユーロもすでに支出先が決まっている。欧州の政治家にのしかかる試練は拡大しているが、彼らの能力は衰えつつある。また、EU最大の「ドナー」であるドイツを含む加盟各国は、EU財源への追加支出を渋っている状況だ。
EUには必要不可欠な出費が多く、柔軟性に欠ける
EUの予算は一見、余裕があるようにみえる。多年度予算の枠には1兆ユーロ(約150兆円)が充てられ、さらに新型コロナ禍からの復興基金から7500億ユーロ(約112兆円)が加わるのだ。
だが、この財源は7年間に分割しなくてはならない。しかもすでに約8割の予算は支出先が決まっている。例えば、共同農業政策や加盟諸国の不公平の解消を進める基金などだ。
このため、EUが「自由に」使える財源は年間300億ユーロ(4.5兆円)程度の計算になる。これでウクライナへの経済・軍事支援、エネルギー資源の転換や半導体製造の支援、地元のクリーンテクノロジー産業の活性化、新たな資源の開発、中国の「一帯一路」構想への対抗などを賄わないとならないのだ。
同紙は「義務的支出という固いコルセットに押し込まれたEUは、地政学的な大国とはなりえないだろう」と指摘。現在のEUの財政状況では山積した課題に対応できないとして、予算編成の柔軟性を高める必要があると主張している。
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