【特集】「わたしたちは言葉に、音を通して感じることができる特別な意味を込めている」アレクサンドル・ラエフスキー東北大学助教授

アレクサンドル・ラエフスキー氏は千葉大学で3日間にわたって、東京に住むロシア語ネイティヴの色の知覚に関する心理言語テストを行った。被験者らに与えられた課題は、330枚の異なる色―中にはかなり珍しい複雑な色も含まれている―のカードを見て、その色をなんと呼ぶか回答するというものである。その回答が独特の表現だった場合、ラエフスキー氏は回答者に11の基本色(青、赤、白、黄など)のどれに当てはまるかを答えさせた。この実験には、「スプートニク」の記者も参加し、その後、ラエフスキー氏に取材を行った。
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スプートニク:アレクサンドルさん、今日は色に関する心理言語テストを行われたわけですが、なぜこのような実験をしようと思われたのですか?またこの実験の目的はなんですか?
アレクサンドル・ラエフスキー氏:わたしは音象徴(サウンドシンボリズム)や言葉のイメージを専門としていることもあり、昨年、東北大学で色の近くに関する研究をしてみてはどうかと提案されました。今回の実験は、1940年代に出版されたB.ベルリンとP.ケイの共著による著作に書かれていたアイデアを基にしたものです。彼らは色の知覚において革命を起こしたとされています。というのも、当時は、人々がどのように色を知覚し、なぜ色をそのように表現するのかについては諸説ありました。
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アレクサンドル・ラエフスキー氏
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心理言語テスト
B.ベルリンとP.ケイは今日、わたしたちが実験でやったような方法論を用いたのです。わたしは、さまざまな色をどのような言葉で表現するのかについて興味があります。というのも、ロシア語には、「子豚色」、「なすび色」、「ラズベリー色」、「カラシ色」、「砂色」など、非常に独特の色の名前があるからです。こうした色の名前にわたしたちの文化や歴史が影響を与えていることは間違いありません。これはロシアの文化コードの特徴を物語っています。つまりわたしたちはこの世界を違った形で捉えているということです。
スプートニク:普段はどのような研究をされているのですか?
アレクサンドル・ラエフスキー氏:わたしの専門分野は言語心理学です。これは、言語というものがわたしたちの思考回路や周囲の世界の知覚にどのような影響を与えているかについて研究する学問です。研究の主なテーマは音象徴に関するもので、色に関する実験を並行して行っています。音象徴の研究というのは、なぜ音というものが一定のイメージを結びついているのかを理解しようとするものです。
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例を挙げましょう。「ブーバ・キキ効果」という言葉を聞いたことはありますか?2001年に、実験を基にした有名な学術論文が発表されました。それは、2つの図形を被験者に見せて、どちらが「ブーバ」でどちらが「キキ」かを尋ねるという実験です。この図形というのが、一つが丸くて大きなもので、もう一つは小さくて星のようにギザギザしているんです。あなたならどちらを「ブーバ」と名づけますか?
スプートニク:そうですね、大きくて丸い方でしょうか。「ブーバ」という音は厚みがある感じがするからです。
アレクサンドル・ラエフスキー氏:その通りです!では、なぜ「ブーバ」というのはそんな感じがするのでしょうか。言語、文化、年齢に関わらず99%の被験者が丸い図形をブーバだと答え、小さいギザギザした図形をキキと答えます。
概して、「イ(i)」という音は何か小さなもの、「オ(o)」や「あ(a)」は何か大きなものをイメージすることが多いのです。「grand」と「petit」、「おおきい」と「ちいさい」、「マクロ」と「ミクロ」などの組み合わせを見てもわかると思います。音象徴というのは、多くの言語に表れています。
スプートニク:今後はどのようなプロジェクトを予定されていますか?
アレクサンドル・ラエフスキー氏:現在は音象徴に関するプロジェクトがあります。音象徴のコンセプトというのは、音声から言葉の意味を予測することができるというものです。言語学者らの基本的な理論では、音と意味の関係は相対的なものだとされています。つまり、「ドーム」とわたしたちが口にするとき、この音と「人が住む建物」という意味の間にはいかなる関連性もないということです。
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しかし、音象徴はこの理論を覆しています。もし相対的なものだとしたら、なぜ「ブーバ・キキ効果」というものがあるのでしょう。やはり何か関連性があるはずです。わたしは、人がある言葉を考案し、作るとき、そこに言語を知らなくても、音を通して感じる一定の意味が込められているのではないかと仮説しています。
そこでわたしは次のような実験を行っています。まず5つのまったく異なる言語―ファルシ語、ロシア語、モンゴル語、タイ語、カザフ語―のネイティブに「白い」「黒い」、「大きい」「小さい」、「長い」「短い」、「遠い」「近い」などのペアとなる形容詞、そして「生」と「死」などの名詞を発音してもらい、録音します。
被験者にはスクリーンにその対となる言葉を見せ、音を聞いてもらい、どちらが何を意味するのかを選んでもらうのです。今のところ、日本人と中国人合わせて20人ずつが参加してもらっただけですが、すでにこれまでの結果から、人は、母国語以外の言語を、実は想像よりもよく理解できるのだということが判っています。
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