軍事アナリストで米空軍退役中佐のカレン・クウィアトコウスキー氏はスプートニクに対し、「米国民に伝える何らかの成功事例がなければ、バイデン政権が増加させるウクライナへの軍事支援を正当化するのは難しい」と語る。
「現時点でウクライナのプロジェクトは『時間と金の無駄』だとみなされている。米国の大規模な軍事、財政供与がなければ、北大西洋条約機構(NATO)の支援は立ち行かなくなる可能性もある」
数ヶ月で枯渇する米国の支援
現在、米国のウクライナへの軍事支援のルートは主に2つある。1つ目は大統領権限による国防総省の持つ備蓄からの直接供給。2つ目は国防総省が主導する資金プログラム「ウクライナ安全保障支援イニシアチブ (USAI)」だ。だが米報道によると、国防総省の高官は「もう財源が残っていない」と漏らしているという。
国防総省によると、米国は2021年1月以降、ウクライナに対して412億ドル(約5兆9500億円)の安全保障関連支援を行っている。そのうち405億ドル(5兆8500億円)は昨年2月の特殊軍事作戦開始後だ。
一方、独シンクタンク「キール世界経済研究所」の推定では、バイデン政権はウクライナ紛争開始後、760億ドル(約11兆円)の人道、経済、軍事支援を行っている。そのうち470億ドルが(約6兆8000億円)軍事支援となっている。
軍事支援の内容は戦車「エイブラムス」31両、歩兵戦闘車「ブラッドレー」109台、輸送車「ストライカー」90台といった戦闘車両をはじめ、多連装ロケット砲「ハイマース」38基などの榴弾砲、防空ミサイルシステム「パトリオット」、歩兵用武器や装備、レーダー設備、衛星通信サービスなどとなっている。
ホワイトハウスは6月中旬、ウクライナの攻勢が失敗に終わったことを受けて、防空システム、砲弾、装甲車両などを含む3億2500万ドル(470億円)相当の追加軍事支援を送ると明かした。
現在、すでに360億ドル(約5兆2000億円)ほどの軍事支援がウクライナに供与されたか、契約を結び発送を待っている状態にある。バイデン政権に残された資金は110億ドル(約1兆6000億円)で、紛争開始後の軍事支援の平均的支出率から推定すれば、あと4ヶ月ほどで底を尽きる計算となる。
米国は27日にも新たな追加軍事支援を発表している。しかし、バイデン政権に残るウクライナ向けの資金は減少しつつあり、それを補充するかどうかは議会次第となっている。
支持失うウクライナ支援
バイデン政権はウクライナ支援を継続するために新たな口実を見つける必要に迫られている。支援の「必要性」には議会でも一定の合意があるものの、野党共和党の院内右派「フリーダム・コーカス」にはさらなる軍事支援に待ったをかける動きもある。
また、国内の世論調査をみても、米国民が紛争の長期化に対して意欲を失いつつあることが着実に示されている。次期大統領選の有力候補である共和党のドナルド・トランプ前大統領、フロリダ州のロン・デサンティス知事、民主党候補のロバート・ケネディ・ジュニア氏らは、いずれもバイデン政権のウクライナにおける冒険主義を公然と批判している。
このようにウクライナが戦場で突破口を開けないなか、米国内の支持も低下する軍事支援の勢いは失速している。クウィアトコウスキー氏は「バイデン政権は地政学的現実と折り合いをつける必要がある」と締めくくっている。
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