F16は古い戦闘機
しかし、ウクライナへのF16供与に関する問題をめぐっては、ちょっとしたごまかしが感じられる。それは、これより前にウクライナに供与された戦車レオパルト2の戦闘力が低く、事実上、ロシア軍の標的になったのとほぼ同様の話である。ウクライナ空軍に供与されるのが、工場から運ばれた改良型の新しいF16であるという確信は一体どこから来るのだろうか。最近、提供されたのは、2018年にバーレーン空軍のために生産された16機である。2013年には、18機がイラク空軍のために生産された。
その後、生産機数は急速に減少し、1994年から1998年に生産されたのはわずか148機である。1999年から2000年は268機、その後、2001年から2018年には310機が生産された。そこで、比較的新しい。つまり22年以内に生産されたこのタイプの戦闘機は、全体の5.8%に過ぎない。29年以内に生産された戦闘機は13.6%で、残りのすべて、つまり86.4%のF16はかなり老朽化しており、廃棄または博物館行きとなるものばかりである。
矛盾しているが、これが事実である。F16は基本的に古い戦闘機なのである。新型というのは、5年以内に生産されたものを指す。あまりに古い戦闘機は事故を引き起こしかねない問題に直面することが多い。
2019年にベルギー空軍のF16戦闘機が墜落した現場(フランス西部プリュヴィネ)
© AP Photo / Prefecture du Morbihan
古くても必要
しかし、F16は米国およびその同盟国の空軍においてもっとも一般的な戦闘機の一つであり続けている。米空軍および米陸軍州兵にはこのタイプの戦闘機が2505機配備されており、そのうち2023年の時点では922機が運用されている。
比較のために書くと、新型戦闘機はこれよりも少なく、F22は177機、F35は320機となっている。米空軍の最新型の戦闘機であるF16C(ブロック50)は2001年に生産されたもので、2022年時点で運用されているもっとも古い戦闘機は1982年製である。保管されている戦闘機の数は1026機で、そのうちの多くは、部品を取り出して使用するためか、記念として残っているものである。
オランダ空軍にはF16戦闘機が223機あるが、2021年の時点で運用されているのは24機である。この時点でまだ運用されていたもっとも新しい戦闘機は1989年製であった。これはオランダ空軍の戦闘機の半分である。そのうちF35戦闘機は26機であった。
デンマーク空軍には78機あるが、そのうち、運用されているのは30機で、もっとも新しい戦闘機は1989年製である。デンマークの空軍にはこれ以外にはF35戦闘機が1機あるだけで、他にはほぼ何もない状態である。
同じような例は他にもある。こうしたことから、ウクライナ空軍に必要な戦闘機の唯一の供給源となりうるのは米空軍だけなのである。他の同盟国がF16戦闘機を提供することはほぼ不可能である。なぜなら、すでにそうした国々ではほとんど、あるいはすべての戦闘機がF16となっているからだ。ウクライナは自国の領空を防御しないままではいられない。
しかし米空軍はウクライナに運用中の戦闘機を供与することはできない。そうなれば自国の空軍の大部分を失うことになるからだ。そこでウクライナに送るのに最適なのは、保管用の基地にある戦闘機ということになる。
ウクライナの操縦士たちは事実上カミカゼ特攻隊になる
冒頭に紹介したブリンケン米国務長官の発言は、おそらくこのことを念頭に置いたものであろう。つまり、保管用の基地を念入りにチェックし、その中から修理しうる戦闘機を選別するための時間が必要なのである。そして、選んだF16戦闘機を修理し、塗装し直し、ヨーロッパへの輸送または飛行に備える。おそらく、これらの戦闘機は、すでにウクライナ空軍に供与された戦闘機が通過するポーランド、ジェシュフの飛行場に送られたあと、ウクライナに引き渡されることになると思われる。
米国とその同盟国はウクライナに対し、F16の操縦の訓練を行うと約束している。しかしながら、これは空中戦の助けにはほとんどならない。2021年、ウクライナ空軍のウラジスラフ・サヴェリエフ大尉は、空軍指導プログラムの2年間のコースに参加するため米国を訪問した。サヴェリエフ大尉は、ウクライナへのF16早期提供を求め、ウクライナの操縦士は誰もがこの戦闘機に憧れていると述べた。サヴェリエフ大尉は2023年3月に訓練を終え、ウクライナに帰国したが、同年6月2日、最初の戦闘飛行で死亡した。つまり、米国による訓練は彼の生命を救うことができなかったのである。
そして今、状況はさらに悪化している。ウクライナに供与されるのが、保管場所から引っ張り出され、うまく修理された、辛うじて飛行が可能な1980年代に生産されたF16C/Dであることは明らかである。修理のための部品はおそらく、さらに古い戦闘機から取り出されたものであろう。
またウクライナの操縦士たちの訓練も短期間で行われることになる。というのも、もっとも経験豊富なウクライナ空軍の操縦士たちはすでに生命を落としており、今、生存している操縦士を訓練するしかないからだ。その基礎的な訓練状況は、ロシア航空宇宙軍の操縦士の訓練状態を大幅に下回っている。またソ連製の戦闘機を使い慣れていた彼らは、機器も操縦法も異なる米国製の戦闘機を使いこなさねばならなくなるのである。
そして最後に、戦闘機の供与に際する一番の問題は、操縦士の訓練ではなく、戦闘機を管理し、飛行に向けた準備をする地上の技術者たちの訓練である。たとえば、ウクライナに供与されたF16の修理やメンテナンスはポーランドで行われることになっている。しかし、いずれにせよ、戦闘機を飛行させる―つまり燃料を補給し、ミサイルを搭載し、飛行前のチェックを行うための専門家は必要である。そしてこれはウクライナの空軍基地で行われなければならない。そのような専門家を養成するための時間はほとんど残っていない。
これらの状況を総合してみると、ウクライナ空軍に供与されるF16はわずかな飛行にしか使われないことになる。そしてその後、戦闘機は撃墜されるか、壊れるかのどちらかである。そのような状況下で、ウクライナの操縦士たちは、事実上、カミカゼ特攻隊になるか、ロシアの戦闘機または防空ミサイルの餌食になるのである。
関連ニュース