【視点】節操のない米国の政策が日本の軍事的野望を加速する

日本政府は8月13日、自衛隊と豪州国防軍との間における相互のアクセスおよび協力の円滑化に関する日本と豪州間の協定(日・豪部隊間協力円滑化協定)を発効させた。今回の動きは、日本と豪州にとって、また地域全体にとってどのような意味を持つのか、スプートニク通信が専門家にお話を伺った。
この記事をSputnikで読む

日本のオーカス参加への第一歩

軍事専門家で、独立国家共同体(CIS)諸国研究所ユーラシア統合・上海協力機構発展課の課長を務めるウラジーミル・エフセーエフ氏は、この合意は、この2カ国が、互いの軍事インフラへのアクセスを保障するために必要不可欠なものだと指摘し、次のように述べている。

「日本にとって、豪州の軍部隊が、日本国内で何らかの軍事行動に参加することはそう重要ではないと思います。というのも豪州は、中国と比べても、それほど強大な軍事力を持つ国ではないからです。軍事力で言えば、日本の方が何倍も強大です。ですから、豪州が自国の軍部隊を日本の領内に配備しようとしているということはないでしょう。どちらかと言えばその逆で、日本が中国抑止を目的に、これを豪州で行う可能性はあります。

つまり、この合意は、オーカスの枠内での現在の米、豪、英の活動が十分ではないということを示す明確な証明となるものです。そこで、オーカスはまだ正式にはこの枠内に参加していない日本をより強く引き込もうとしているのです。しかし、日本も、地域の戦略に傾きつつあることは明白です。つまり、日本と豪州の今回の合意は、日本が今後2年以内に、オーカスに完全に参加することを決定したとみなすことができるものです」

ウラジーミル・エフセーエフ
CIS諸国研究所、ユーラシア統合・上海協力機構発展課、課長
【視点】利益獲得も想定し、防衛費を増大する日本

豪州を中国から引き離す

他でもない豪州領内で、日本の自衛隊の配備が提案されている目的はまさにこれである。これに関して、エフセーエフ氏は、第一に、この国の港に自衛隊の艦艇を寄港させるためだと述べている。

「加えて、この2カ国間の合意は、豪州領内で日本の航空自衛隊を展開させる可能性も想定されている可能性があります。

これにより、興味深い状況が出来上がります。豪州は中国との経済関係を改善しようとしています。しかし、米国と日本は、豪州を中国との互恵的な協力から遠ざけるためにあらゆる努力を行っています。何より、軍事政治的な手段を用いて、豪州と中国の関係を最大限に先鋭化しようとしています。豪州領内での日本の自衛隊の存在は、中・豪関係を悪化させるものになることは明らかだからです」

ウラジーミル・エフセーエフ
CIS諸国研究所、ユーラシア統合・上海協力機構発展課、課長
このように、これは日本のオーカス参加に向けた戦略でもあり、また豪州と中国の経済関係の改善に向けたプロセスを破壊しようとする試みなのである。

日本の軍事的野望の高まり

これは地域にとって、軍拡競争をさらに拡大するものであり、日本は今、ここに積極的に参加している。

「豪州の人口はそれほど大きなものではありません。自由になる領土もたくさんあります。豪州に米国軍部隊を配備するという決定もなされており、今後は日本の自衛隊が正式に配備される可能性もあります。

そしてここに豪州にとっての一定の矛盾があります。第二次世界大戦時、太平洋戦争において、豪州周辺で同盟国と日本軍との戦争が行われました。しかし今、豪州は自発的に日本人に自国の領土を差し出しています。これにより、豪州は事実上、豪州領土において日本が軍事政治的影響を持つことに合意したということです。もっとも、豪州は自国の軍事力が十分でないことから、こうするほかないのです」

ウラジーミル・エフセーエフ
CIS諸国研究所、ユーラシア統合・上海協力機構発展課、課長
【視点】防衛費を増大しても、安全能力は向上しない?

先見の明のなさと脆弱性:米国自身にとって非生産的な政策

一方、エフセーエフ氏は、しかしながら、これは日本において徐々に「当たり前のもの」になりつつある軍事的野望の高まりを促進することになると指摘している。

「日本は防衛費を増額しています。そこには、艦艇の船団を豪州に配備するための費用も含まれています。それらの艦艇が豪州に常設配備される可能性もあり、そのためには配置換え、水上艦艇や自衛隊員の増加が必要です。そこには戦闘機も含まれます。

しかし、このような行動によって、米国は大きな過ちを犯しています。というのも、日本に新たな軍事化を行わせることで、米国は再び、近い将来、日本を強力な潜在的な『敵』を作ることになるからです。というのも、自らの手で、豪州を日本に与えているのですから。つまり、この戦略は、ホワイトハウス自身にとって非生産的なものなのです」

ウラジーミル・エフセーエフ
CIS諸国研究所、ユーラシア統合・上海協力機構発展課、課長
一方、米国の現在の政策は、ヨーロッパだけでなく、世界の他の地域でも軍事力を維持する必要に迫られている、現在の地政学における米国の軍事力不足にも起因している。

「しかし、何より重要なのは中国との対立における能力を高める―とりわけ、艦隊を強化することです。そこで米国はこのプロセスにアジアの同盟国を積極的に引き入れようとしています。第二次世界大戦の歴史の教訓はすっかり忘れ去られてしまったようです」

ウラジーミル・エフセーエフ
CIS諸国研究所、ユーラシア統合・上海協力機構発展課、課長
【解説】アジアを分断するAUKUS 原潜配備計画の詳細を明らかにした米英豪首脳

国際条約を迂回する

一方、豪州はオーカスの協力の枠内で、米国からバージニア級原子力潜水艦5隻を購入することになっている。この潜水艦の活動は、この地域における米国のより大きなプログラムや計画に統合されていくことになっている。

「ちなみに、米国は自国の潜水艦で兵器級ウランの形で核燃料を使用しています。つまり、事実上、(核兵器を保有していない)豪州領内に兵器級ウランが配備されることになるのです。これは核拡散条約の重大な違反です。つまり、米国は国連で定められた国際的な義務を放棄し、この(核不拡散)条約を崩壊させる方針をとっているのです」

ウラジーミル・エフセーエフ
CIS諸国研究所、ユーラシア統合・上海協力機構発展課、課長
これはアジア地域における米国の戦法的な利益が、戦略的な利益を上回っていることを物語っている。

「これが、まったく節操のない米国の政策を作り出しています。今、米国にとっては、豪州を中国との対立に引き入れ、日本を再び軍事大国として蘇らせることがきわめて重要なのです」

ウラジーミル・エフセーエフ
CIS諸国研究所、ユーラシア統合・上海協力機構発展課、課長
関連記事
【視点】安全保障の罠 日豪円滑化協定が13日に発効
【視点】アジア太平洋地域におけるエスカレーションの悪循環には拍車がかかる
コメント