【視点】世界の大手軍需産業が次々とアジア本社を日本へ移転 日本には旨味はあるか

西側の大手軍需産業の多くが、アジア本社を日本に移転、あるいは移転を計画している。 これは、日本の防衛力強化を背景に起きている。自衛隊では技術的な再装備が進められており、防衛費の大幅な増加と軍需品輸出の拡大が見込まれているからだ。
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米航空機・宇宙船開発製造会社ロッキード・マーチンは、最近、シンガポールから日本への本社の移転を完了した。同社は日本に地対空ミサイルシステム「パトリオット・アドヴァンスト・ケイパビリティ・スリー(PAC-3)」とF-35ステルス戦闘機を供給している存在だ。これに先立つ2022年6月には、航空、航空宇宙システム、情報技術を専門とする米国企業、L3ハリス・テクノロジーズが日本に子会社を開設している。
これら米国の3社よりもさらに前の2022年1月には、英国のBAEシステムズが日本に子会社を設立している。同社は、次世代戦闘機の共同開発のために日英伊が設立したプログラム「グローバル・コンバット・エア・プログラム(GCAP)」に参画している。BAEシステムズは、これまでマレーシアを拠点としていた運営監督部門を日本に移転させ、これがアジア地域における事業開発戦略の監督を担当する。
これらの移転については日経アジアが報じている。記事は日本への生産移転について明確に言及しているわけではないが、海外勢の参入で、かろうじて採算性を維持している日本の軍産複合体の立場を損ねるのではないかと懸念を表す内容になっていた。
【視点】利益獲得も想定し、防衛費を増大する日本
スプートニクはこれらの移転の背景には何があるのか、また日本の防衛費の増大と関係があるのかについて、2人の専門家にコメントを求めた。
高等経済学院、世界経済国際政治学部のオレグ・パラモノフ准教授は、西側の軍産複合体にとってのアジアでの作戦拠点に、日本がなりつつあるとして、次のように語っている。

「NATOの日本事務所開設が延期された後も、大手グローバル企業もそれよりも著名度が多少劣る企業も、日本を営業コスト等の経費削減のための拠点としてとらえる関心は衰えていません。製造協力の計画や、共同製造品の第三国への輸出に許可が下りそうなことも、この関心を後押ししています。 これまでは日本はこの分野に制限を設けてきましたが、今後は供給者、輸入者ともに数が大幅に増える可能性があります。その意味で、他国との共同製造品はより期待が大きいといえます。 また、いつか日本にNATOの事務所が開設されれば、現在の軍事技術協力が軍事協力に発展する可能性もあります」

サンクトペテルブルグ大学東洋学部のエフゲニー・オスマノフ准教授は、この地域ではなんらかの事態を想定した準備が進められており、こうした条件下では企業にとって重要なのは、最も予測可能で、比較的安全な場所に管理の拠点を設置することだとして、次のように語っている。

「重要なことは、日本はこの地域における米国の主要な同盟国であり、その軍事力に米国が頼っているということです。 韓国も米国の同盟国ですが、北朝鮮や中国と隣接しているため、日本に比べると脆弱です。もちろん、日本の管理体制やロジスティクスは他国に比べて安定しており、予測が可能で整備されています。そして、このロケーションは、なにがなんでも親米であり続けることには変わりはありません。ただし、管理拠点を一か所に集中させることが戦略的に正しいかどうかはわかりませんが...」

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それでは、日経アジアが懸念するように、こうした企業は日本の軍産複合体の利益を侵害することはないのだろうか?
パラモノフ准教授はこれについては次のように考えている。

「日本は、入札がなく、購入が厳格に集中化されていたこの分野に『揺さぶりをかける』ための支援と開発に興味を持っています。しかし、日本のメーカーにとって、これはリスクを伴います。日本の軍産複合体は、現地の下請け企業(部材を供給する中小企業)と緊密に協力しています。しかし共同開発の場合、パートナーが欧米企業からの部材購入を強制する恐れがあり、そうなると日本の下請け企業は受注を失うことになります。 共同プロジェクトの中には、すでに進行中のものもあります。

それは次世代戦闘機ですが、今後は別の新しいプロジェクトも現れてくるでしょう。日本は幅広い分野で軍事製品を生産していますが、弱い部分もあるからです。例えば、航空ドローン。これは日本が手掛けてこなかった分野です。また、リスクがあるのは中小企業だけではありません。大企業だって同じで、ようやく黒字化したばかりです。三菱重工や川崎重工は有名な企業ですが、西側のパートナーほどブランド力があるわけではありませんし、共同プロジェクトの主な受益者となり得る西側企業の陰に隠れるリスクがあります」

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オスマノフ准教授は、本社を日本に移したことで、多くの問題をより迅速に、より低コストで解決できるようになったものの、生産拠点の移転には話は及んでいないと言う。

「おそらくこれは最初のステップです。日本での共同開発は可能ですが、生産拠点を日本に移すことは、メーカーと日本の双方にとって不利になります。第一に、コストがかかること、第二に、日本自体が労働力不足に陥っていることです。 また日本社会はプロパガンダや反中・反露制裁が行われてはいても、それに積極的ではなく平和主義的です。 彼らにとって安定は重要であり、他人の『戦い』に入っていく気はありません。 確かに、米国は日本にすべての代償を払わせることができるメカニズムを持っています。すべては地域状況次第です。 米国は、状況が日本を脅かしている、脅威は現実となるかもしれない、日本は自分で自国の安全を確保しなければならない、と言うかもしれません…」

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