身内に背中刺される
下院で3日に行われた採決の結果、マッカーシー氏の解任には216人が賛成し、210人が反対票を投じた。
マッカーシー氏の解任を求める動議を提出したのは、同じ共和党所属のマット・ゲーツ議員だった。マッカーシー氏が「シャットダウン(政府閉鎖)」を避けるために民主党と妥協し、45日間にわたって政府への資金提供を継続する予算(いわゆる「つなぎ予算」)を成立させたことを非難。また、マッカーシー氏がウクライナへの資金提供を目的としてジョー・バイデン大統領と「秘密協定」に合意した疑いがあると指摘していた。
暫定議長には下院金融委員会の委員長を務めるパトリック・マクヘンリー議員(共和党)が就任した。同氏の名は規則に即してマッカーシー氏が予め指名していた継承者リストのトップにあがっていた。
米国内の反応
異例の事態を受け、米各メディアでも様々な論評がみられる。ニューヨーク・タイムズ紙は「マッカーシーは共和党内の権力闘争に敗れた」とし、解任動議の可決は米国史上で前例のないものとなったとしている。
また、米政治専門誌ポリティコは、「議長職の求人は野心家の共和党員の闘争を招き、それは汚く長引くものになる」と指摘している。ワシントン・ポスト紙は「下院はリーダーシップを求めて未知の領域に入った」と評している。
トランプ氏が候補に浮上
解任動議の可決を受け、下院は11日まで休会となった。この1週間で次の下院議長選出に向け、各会派が候補者選定などの準備を進める。こうしたなか、共和党のトロイ・ニールズ下院議員は、「ドナルド・トランプ前大統領を推薦する」と表明。米下院では議長を現職議員から選ぶという明文規定はないため、理論上は可能となっている。
トランプ前大統領の政治顧問ロジャー・ストーン氏の弁護士を務めたテイラー・ニクソン氏は、マッカーシー氏の解任が与党民主党にとっての敗北とみる。
「民主党は共和党内で自分たちの友人だったマッカーシー氏を排除することを承認した。民主党員は巨額予算プロジェクトで納税者の資金を盗むことに成功したため、次に何が起こるかは気にしていないのかもしれない。だが、マッカーシーとは違い民主党を批判し、妥協しないような筋金入りの共和党員が議長になれば、民主党としても困るのではないかと思う」
このように米下院では次期議長が決まるまで、全ての審議が事実上凍結されることとなる。しかも、先日成立した政府閉鎖を回避するための「つなぎ予算」の期限は45日しかなく、これにはウクライナへの支援予算は含まれていないなど、問題が山積しているなかでの議長解任劇となっている。
人質となるウクライナ
ロシア科学アカデミー・アメリカ・カナダ研究所のウラジーミル・ワリーリエフ主任研究員は、スプートニクに対し、議長が選出されるまでウクライナへの支援は「鈍化」するが、金額は少なくなっても継続されるとみる。
「2023年11月17日以降、ウクライナへの支援規模を含む予算を成立させるという問題が残っており、今は凍結されている。だが、『つなぎ予算』に含まれていないからといって、11月以降に復活しないというわけではない。現時点では、新議長に関する問題がどう解決されるかにかかっている」
また、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所(IMEMO)のヴィクトリア・ジュラヴレヴァ上級研究員は、ウクライナ支援問題が政争の道具になっていると指摘する。
「ウクライナはこの1日では解決しないプロセスの人質になるだろう。議長が選ばれないうちは、ウクライナ問題は民主党と共和党の駆け引きの道具となる」