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【視点】脱炭素社会に必須の二酸化炭素の地下貯留、日本はアジアのリーダーシップを取れる?日本の専門家が指摘する事業化への課題

9月27日、日本政府とマレーシアの国営石油会社ペトロナスは、二酸化炭素(CO2)を回収して地下に貯留する技術「CCS」(Carbon dioxide Capture and Storage)をめぐり、覚書を交わした。2028年を目処に、日本からマレーシアに二酸化炭素を輸送し、貯留することを目指すものだ。日本がパリ協定で目標として掲げた2050年の脱炭素社会に向け、この試みが意味するものは何なのか、そして日本が直面する課題について、CCS技術に詳しい東京工業大学の末包哲也(すえかね・てつや)教授に話を聞いた。
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そもそも脱炭素社会とは、CO2などの温室効果ガスの排出量を「実質」ゼロにする社会。排出されたCO2を大気中に放出せず地中に埋めることができれば、既存の火力発電所や工場などを引き続き稼働させられるため、CCSの導入に注目が集まっている。例えば、世界で初めてCCSを実用化したノルウェーの国営エネルギー企業エクイノール社(旧スタトイル社)は、ガス田「スライプナー」において10年以上の実績があり、年間100万トンベースでCO2の地下注入を行なっている。
日本で行なっている北海道苫小牧市のCCS実証実験はうまくいっているが、注入量は年間40万トンと、スライプナーの半分にも及ばない。ところがパリ協定の目標を達成するには、スライプナーよりも、はるかに多くのCO2を注入していかなければならない。これを国内のみでまかなうのは経済的に不合理である、と末包氏は指摘する。

「経済産業省によると、パリ協定を満たすには、日本は年間1,2億トンから2,4億トンものCO2を注入しなければいけません。今、世界で最も成功しているスライプナーと同規模のものを、日本国内で240〜480か所もやらなければならない試算になります。また、日本には貯留ポテンシャル、つまり埋められる適地はありますが、断層が多いため、一つ一つのセクションが小さく、いきなり大量に埋められるところがないのです。また、どれくらい容易に注入できるか?という点も、はっきりしません。その点、海外にはスライプナーのように、規模も大きくて、入れやすいところがたくさんあります。よって、国内だけでは難しいのは当然で、海外でもやっていかなければなりません」

末包哲也教授
東京工業大学
廃棄物のイメージがあるCO2だが、その使い道として注目されているのが、原油増進回収「EOR」(Enhanced Oil Recovery)である。一次的に回収できる原油は、地層にある総量の1〜3割にも満たないと言われている。そこにCO2を入れると、CO2が原油を押し出す形となって、増産につながったケースがいくつもある。マレーシアの石油会社が日本のCO2を受け入れるのも、これを見据えてのことかもしれない。

「イメージ的には、水だけで、食器の油汚れが落ちないのと同じです。油田にCO2を注入すると、地下の高温高圧で液化し、食器の油を落とす洗剤のような働きをします。枯渇してきているような古い油田にCO2を入れると、原油の増進回収ができるので、新規油田に投資せずにすみます。今回のプロジェクトはマレーシアの石油会社と組む、ということですから、色々なオプションがあるでしょうが、石油会社として利益になるのなら、EORの技術を使うでしょう。また、石油会社としても、いつまでも石油を掘っていて良いのか?という問題と直面しています。オイルカンパニーには風当たりが強い時代になりました。今では銀行も、石油会社には投資を控えようという風潮がありますし、世界的に、石油をメインの商品にするのではなく、もっと違うところにビジネス展開を求めようという傾向があります。そこで、より多角的なエネルギー企業になっていくため、EOR技術も取り入れて、事業の一歩にしたいのではないか、と考えます」

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10月5日、日本外務省の地球規模課題審議官・赤堀毅氏は「SDGs達成と気候変動問題への日本の貢献」と題した外国メディア向け講演の中で、気候変動分野における日本の取り組みを紹介し、CCSについて「日本政府としてはこういった先端技術も使いながらアジアの脱炭素化に貢献したい」と話した。
末包氏は、CCSを実用化するにあたっては、アジアの地域的な特性を考慮しなければならない、と指摘する。アメリカやヨーロッパであればパイプライン網が整備されているが、日本はパイプライン輸送できないため、CO2も水素も船で輸送することになる。これを前提として、CO2、水素、アンモニア等のサプライチェーンをどうやってアジアで構築していくのか、日本が主導権を握れるのかがこれからの鍵になる。

「アジアをリードしていくには、国際標準や規格をどうするのか?という競争もあります。日本の立ち位置は正直、未知数です。例えば、中国は非常に大きい国ですし、貯蔵ポテンシャルも大きい。しかし、日本のCO2を中国に貯留したり、引き受けてもらえるかというと、ポリティカルなリスクを避けて通れません。今現在、アジアのネットワークの中に中国はキープレイヤーとして入っていません。ですから日本も、マレーシアやインドネシア、ベトナムといった国々と、進めようとしているのだと思います」

また、コスト面について末包氏は「今は1トンのCO2を分離するのに5000円以上かかっています。船舶輸送にもお金がかかりますが、全体としてはそこまでのコストではないので、分離回収のコスト削減が最優先」と話す。
経済産業省によると、パリ協定の遵守のためには、2030年中にCCSを事業として開始する必要がある、と試算されている。今は、事業環境の整備を行いつつ、どのようなビジネスモデルがあり得るのか、模索している段階だ。

「国によるマレーシアとの事業開始はあくまでも呼び水です。重要なのは民間の参入であり、今は、地域性を加味してビジネスモデルを考えてください、という準備期間です。本当にできるのかな、と思いますが、もしできたら脱炭素を実現ということで、日本は世界的な主導権を取れるようになります。私としても、アジアのビジネスモデルは日本を中心として組み立ててもらえれば嬉しいという希望はあります」

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並行して、国内で事業化するための法整備も進められている。また、末包氏は、今後は近隣住民の理解を得るための環境整備も必要になってくるだろうと指摘する。

「今のところはCCSに関連する根拠法、整備のための法律はありません。例えば、石炭やガスを採掘する場合、土地の権利と、地下のリソースをどう利用するか?という権利関係は法で定められています。では、土地の持ち主と下に埋めたCO2はどうなるのか、誰がどれくらいの期間、管理するのか、それが明確になるような法律を制定している最中です。おそらく来年には、CCS事業の法律的なバックグラウンドがはっきりするでしょう。

また、事業実施地に近い住民の理解もきちんと得ていく必要があります。スウェーデンやオランダでは住民の反対運動がありました。いっぽう、オーストラリアのように、コミュニケーターを雇ってきめ細かく地域説明会を行い、うまく理解が得られたケースもあります。日本では、苫小牧の実証実験をするにあたり、十分な説明をしたこともあって、地元からは好意を持って受け止められました。しかし、他の事業が全部スムーズに理解を得られるとも限らないので、1箇所ごとに、クリアしていく必要があります」

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