「経済産業省によると、パリ協定を満たすには、日本は年間1,2億トンから2,4億トンものCO2を注入しなければいけません。今、世界で最も成功しているスライプナーと同規模のものを、日本国内で240〜480か所もやらなければならない試算になります。また、日本には貯留ポテンシャル、つまり埋められる適地はありますが、断層が多いため、一つ一つのセクションが小さく、いきなり大量に埋められるところがないのです。また、どれくらい容易に注入できるか?という点も、はっきりしません。その点、海外にはスライプナーのように、規模も大きくて、入れやすいところがたくさんあります。よって、国内だけでは難しいのは当然で、海外でもやっていかなければなりません」
「イメージ的には、水だけで、食器の油汚れが落ちないのと同じです。油田にCO2を注入すると、地下の高温高圧で液化し、食器の油を落とす洗剤のような働きをします。枯渇してきているような古い油田にCO2を入れると、原油の増進回収ができるので、新規油田に投資せずにすみます。今回のプロジェクトはマレーシアの石油会社と組む、ということですから、色々なオプションがあるでしょうが、石油会社として利益になるのなら、EORの技術を使うでしょう。また、石油会社としても、いつまでも石油を掘っていて良いのか?という問題と直面しています。オイルカンパニーには風当たりが強い時代になりました。今では銀行も、石油会社には投資を控えようという風潮がありますし、世界的に、石油をメインの商品にするのではなく、もっと違うところにビジネス展開を求めようという傾向があります。そこで、より多角的なエネルギー企業になっていくため、EOR技術も取り入れて、事業の一歩にしたいのではないか、と考えます」
「アジアをリードしていくには、国際標準や規格をどうするのか?という競争もあります。日本の立ち位置は正直、未知数です。例えば、中国は非常に大きい国ですし、貯蔵ポテンシャルも大きい。しかし、日本のCO2を中国に貯留したり、引き受けてもらえるかというと、ポリティカルなリスクを避けて通れません。今現在、アジアのネットワークの中に中国はキープレイヤーとして入っていません。ですから日本も、マレーシアやインドネシア、ベトナムといった国々と、進めようとしているのだと思います」
「国によるマレーシアとの事業開始はあくまでも呼び水です。重要なのは民間の参入であり、今は、地域性を加味してビジネスモデルを考えてください、という準備期間です。本当にできるのかな、と思いますが、もしできたら脱炭素を実現ということで、日本は世界的な主導権を取れるようになります。私としても、アジアのビジネスモデルは日本を中心として組み立ててもらえれば嬉しいという希望はあります」
「今のところはCCSに関連する根拠法、整備のための法律はありません。例えば、石炭やガスを採掘する場合、土地の権利と、地下のリソースをどう利用するか?という権利関係は法で定められています。では、土地の持ち主と下に埋めたCO2はどうなるのか、誰がどれくらいの期間、管理するのか、それが明確になるような法律を制定している最中です。おそらく来年には、CCS事業の法律的なバックグラウンドがはっきりするでしょう。
また、事業実施地に近い住民の理解もきちんと得ていく必要があります。スウェーデンやオランダでは住民の反対運動がありました。いっぽう、オーストラリアのように、コミュニケーターを雇ってきめ細かく地域説明会を行い、うまく理解が得られたケースもあります。日本では、苫小牧の実証実験をするにあたり、十分な説明をしたこともあって、地元からは好意を持って受け止められました。しかし、他の事業が全部スムーズに理解を得られるとも限らないので、1箇所ごとに、クリアしていく必要があります」