10月7日のハマスによる奇襲攻撃では、3000発以上ともいわれるロケット弾が放たれ、イスラエルの防空システム・アイアンドーム(鉄の屋根)は対応しきれなかった。米メディアによると、これを受けイスラエルは米国に対し、統合直接攻撃弾(JDAM)や空軍向け迎撃ミサイル、諜報支援などを求めた。
一方、米議会が可決した「つなぎ予算」から除外された240億ドル(3兆5700億円)のウクライナ支援は、現在に至るまで宙ぶらりんの状態となっている。こうしたなか、米議員らがどのようにイスラエルとウクライナの支援を調整するのか、いずれかを後回しにせざるを得ないのか、注目が集まっている。
スプートニクは国際関係や軍事に詳しい米国防総省の元分析官、カレン・クウィアトコウスキー氏に話を聞いた。
「当初の支援は単に道義的なものになるだろう。まず、イスラエル向けに取ってある兵器や財政支援が迅速に送られ、必要とされれば諜報支援ももちろん行う。だが、今回の攻撃は米諜報機関にとってもサプライズで、完全に不意を突かれたようだ。今はこの数週間、数ヶ月で兆候を見逃した経緯を精査しているところだろう」
ウクライナ、イスラエル支援の違い
イスラエルは米国にとって、非NATO(北大西洋条約機構)加盟国のなかで最も主要な同盟国の1つとなっている。イスラエルの建国以来、米国は現在の価値に換算して累計2330億ドル(35兆円)の支援を行っており、政治的にも国連安保理でのイスラエル非難決議に拒否権を発動するなど、熱烈に支持してきた。このため、米議会もイスラエルへの軍事・財政支援を最優先とするとみられる。
「米政府の財布の紐が下院にコントロールされているなか、中東情勢が沸騰している。短期的には今ある資源(軍事・財政支援)を再分配するかどうかは、バイデン政権次第ということになる」
ウクライナ支援に対し消極的だった共和党だが、イスラエルへの緊急支援には前のめりとなっている。ケビン・マッカーシー下院議長の解任を受けて、イスラエル支援が遅れていると声をあげる議員もいるという。そのため、下院は次期議長の選任をできるだけ迅速に行う用意ができている。
有力候補者とされているのは党指導部での経験が豊富なスティーブ・スカリス院内総務と保守強硬派からの支持が厚いジム・ジョーダン司法委員長だ。だが、いずれも選出に必要な218票の支持は集められていない。一部の共和党議員からは、イスラエル支援を加速させるためにマッカーシー氏を復帰させる案も出ている。
米国はどの程度介入するか
米軍はすでに東地中海に空母を派遣している。だが、米国は中東の泥沼にはまったり、これ以上のエスカレーションを招くことは避けたいと考えていると、クウィアトコウスキー氏は指摘する。
「米国はすでに崩壊しており、国内経済や政治的分断で満たされている。しかも、選挙の年を目前に控えている。こうしたなかでウクライナとイスラエルを同時に支援すれば、米国の対外政策の論理的欠陥を露呈させるだろう」
イスラエルはどこまでやるか
イスラエルは過去数年にわたり、アラブ諸国との国交正常化を目指してきた。アラブ首長国連邦を始めとする複数のイスラム諸国といわゆるアブラハム合意を結び、中東の盟主サウジアラビアとの関係改善も進めてきた。こうしたなか、パレスチナのアラブ人に対して極端な軍事行動をとれば、これまでの努力が水泡に帰す恐れがある。
「イスラエル軍はガザ地区の生命を全て破壊する能力を持つが、国内からの懸念や政治外交などの問題も抱えており、これがある種の抑制装置として機能している。もし、イスラエルがガザの住民を絶滅させ、排除するような動きを見せれば、長期的にはイスラエルにとっても利益とはならないだろう」
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