パレスチナ・ガザ地区を実効支配するイスラム組織・ハマスは17日、ガザ市中心部のアル・アハリ病院へのイスラエル軍の攻撃で、500人が死亡したと発表した。一方、イスラエルはハマス側の武装組織「イスラム聖戦」によるロケット弾発射の失敗が原因として関与を否定している。
使用爆弾は米製か
双方の主張が食い違うなか、真実はどこにあるのだろうか。露軍事専門家のアレクセイ・レオンコフ氏は、攻撃時の爆風で揺れる病院の映像は、イスラエル軍の攻撃によるものだとするハマス側の主張に合致すると指摘する。
「爆発の威力と映像で聞こえる特徴的な音から判断すれば、この攻撃は米国製のGBU31(編注:誘導爆弾ユニット31)の可能性が高い」
GBU31は通常の無誘導爆弾に、精密誘導を可能にする装置JDAMを搭載したもの。スマート爆弾とも呼ばれる。
露ミサイル・砲科アカデミーの軍事専門家、コンスタンティン・シブコフ氏もレオンコフ氏と同様の考えを示した。
「イスラエル空軍がGBU31を誤って投下した可能性は高い。何らかの制御システムが不具合を起こし、誤った場所に落下したのかもしれない」
イスラエルの主張の根拠は
一方、イスラエル側は「イスラム聖戦」によるロケット弾の発射失敗で、悲劇が起こったと主張する動画を投稿している。イスラエル軍は、ミサイル攻撃であれば駐車場が炎上したり屋根が飛び散るのではなく、大きなクレーターが残るはずだと指摘。軍のダニエル・ハギリ報道官は「駐車場などに損傷はあるが、外からの直撃はなかった」と説明している。
だが、シブコフ氏はイスラエル軍の説明に疑問を呈した。
「クレーターは通常、建物がない場所に攻撃が当たった場合にできる。病院に直撃したとすれば、建物が崩壊するのでそこに大きな穴が空くわけがない」
シブコフ氏は、被害の大きさを考慮すれば、非常で大型で精巧な兵器が使用されたと指摘。イスラエルの諜報機関が暗躍するガザ地区で、そうした大規模な装置を隠せるとは考えにくいと説明している。さらに、信頼できる情報が不足しておりミサイルか誘導爆弾かを断定することは難しいとしながらも、「イスラエルが最新鋭のミサイルを保有しているのに対し、パレスチナの武装勢力はそうではない」とも付け加えた。
「いずれにせよ、ハマスの痕跡は見えない。彼らはこれまでの被害を出せるミサイルを製造することはできない。イスラエルが意図的に病院を攻撃し、そこにいたかもしれないハマス過激派の殲滅を企図した可能性も排除はできない」
イスラエル擁護の米国
ガザ病院爆撃直後にイスラエルを訪問した米国のジョー・バイデン大統領は、イスラエル軍の説明に同調した。首脳会談でバイデン大統領はベンヤミン・ネタニヤフ首相に対し、「爆撃はあなた方ではなく、相手方が引き起こしたようだ」と述べた。また、攻撃に対しては「深い悲しみと憤りを覚える」としたうえで、米国は「今日も明日も、そして常に」イスラエルの側にあると約束した。
また、米CNNは、米国の情報機関が「攻撃は空から行われたものではない」と分析していると報じた。ここでもイスラエルが言う「現場には爆弾が使用されたことを示すようなクレーターはなかった」という主張を展開している。
今回の攻撃を受け、予定されていたバイデン大統領とエジプト、ヨルダン、パレスチナ(ヨルダン川西岸地区)などアラブ諸国・勢力との首脳会談は中止になった。バイデン大統領のイスラエル訪問前、米国防総省はイスラエルへの非難は避ける形で、「戦争のルール」を守るよう呼びかけた。また、ホワイトハウスはバイデン大統領がイスラエルに対し「友人としていくつかの難しい質問を投げかける」としていた。
ロシアの立場
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は18日、訪問先の中国・北京での記者会見で、病院爆撃について「悲劇で人道的大惨劇」と述べた。さらに、「これが紛争を終わらせなければならないというシグナルになると期待している」として、即時停戦を支持する考えを改めて表明した。
また、ロシアのマリア・ザハロワ報道官はこれまでに、スプートニクラジオの番組に出演した中で、「攻撃は犯罪で人間性を失う行為だ」と強く非難。「衛星写真を見れば誰が撃ったか明らかだ」と述べた。露元大統領で現在は安全保障会議の副議長を務めるドミトリー・メドベージェフ氏も、最終的な責任は、「戦争で金儲けをしている米国にある」と指摘している。
ロシアは双方に即時停戦と交渉の再開を呼び掛けている。ウラジーミル・プーチン大統領はこれまでに、紛争を解決するためには、パレスチナの独立主権国家樹立に関する国連安全保障理事会の決定を履行する必要があるとの考えを示している。
イスラエル・パレスチナ紛争の激化
10月7日、ガザ地区を実効支配するイスラム組織・ハマスはイスラエル南部と中部に向けて突如ミサイル攻撃を行い、一部の地上部隊がイスラエル側に越境攻撃した。ハマスの奇襲攻撃を受け、イスラエル軍はガザ地区への空爆などの報復作戦を開始。第四次中東戦争以来50年ぶりとなる正式な「戦争状態」への移行を宣言した。
ハマスの奇襲後、イスラエル軍は30万人の予備役を動員。また、議会では与野党が戦時下での挙国一致内閣を樹立させた。米国からの弾薬支援も受けるなど、本格的な地上作戦を準備しているとされる。
イスラエルのガラント国防相はこれまでに「ハマスは地球上から一掃される」と徹底的な報復を予告。イスラエル外務省も「ガザ地区で戦略的目標をすべて達成するまで軍事作戦を継続する」と妥協を一切許さない強硬姿勢を示している。
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