外交と対話
「ヘンリー・キッシンジャー氏は自国の国益を断固として主張する力があり、今の西側の政治家らの狂気と粉砕を背景にしながらも外交と対話の再生を図ろうとした有能な外交官として歴史に名を遺すだろう」クレムリンはキッシンジャー氏の逝去にこうした声明を表明。
ロシアがこう評すキッシンジャー氏の方は、2016年のモスクワ訪問の際にプーチン大統領について、こんな感想を述べていた。
「ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、自国の国益を明確に計算し、断固として譲らない。そしてその国益には独自の特徴がいくつもあることを正当に示している」
自国の国益を擁護し、全ての問題を対話を通じて解決する。まさにこの資質がキッシンジャー氏とプーチン氏を近づけ、お互いにとって興味深い対話相手にさせていた。
民主主義? それとも権力の空洞?
キッシンジャー氏がプーチン氏を独裁者呼ばわりしたことは一度もない。またロシアを非民主主義国と扱いしたこともなかった。キッシンジャー氏は、「今日の世界では、脅威は国家権力の集中からではなく、国家権力の崩壊の結果、生じることが多い。権力の空洞が拡張すれば、かつてどれほどの威信を誇った国であろうとも、それには対抗できない」と指摘していた。
多極世界は不可避
キッシンジャー氏は米国とその同盟国に対し、新国際システムの形成過程においてロシアの声に耳を傾けるよう助言していた。キッシンジャー氏とプーチン大統領は、米露が長期的に利益を得るには、現在の混乱と不安定さを新たな多極的均衡へと転換するような世界秩序が必要との認識で一致していた。