日本政府は、電力生産をかなりの部分、支えていた福島第一原子力発電所の事故後、電力コストと火力発電所からの温室効果ガス排出量の両方を削減するためには、原発の再稼働が優先事項だと考えている。
柏崎刈羽原発の再稼働は、日本のエネルギー産業にプラスの効果をもたらすのか。日本は世界で最も厳格とされる安全基準を新たに採用したが、にもかかわらず、運用上のリスクは存在するのだろうか?
この問題について、原子力分野の専門家で、原子力科学・技術の発展を支援する団体「アトムインフォ・センター」のアレクサンドル・ウヴァロフ所長は次のように語っている。
「まず指摘しておきたいのは、日本が世界最大の原発の再稼働を準備しているという世界のメディアの見出しは正しくない。再稼働への準備は柏崎刈羽原発全体で進められているのではなく、6号機と7号機の1基もしくは2基だけだ。これらは比較的新しい原子炉で、安全性はかなり高い。このことは、日本のエネルギー部門にとってというよりも、事業者である東京電力にとって重要な意味を持つ。東電は福島原発事故後に停止させた原子炉をこれまで再稼働させてこなかった。これは東電に対する政府や地域からの信頼の問題だ。2023年末、原子力規制委員会は柏崎刈羽原発の運転禁止命令を解除した。2024年3月にはIAEA(国際原子力機関)の専門家がテロ攻撃に対する防御の観点も含め、設備やインフラを査察した。そして4月、東電は早々と原子炉に核燃料を入れる作業を開始している」
ウヴァロフ氏は、1ー2基の原子炉を再稼働したところでエネルギー問題に大きな貢献はないとしながらも、これは原子力発電を利用する日本人の意識に変化が生じたことを意味するととらえている。
「日本は原子力に賭けている。原発の部分的な再稼働を実施し、国民の反応を注視しつつ、数か所で段階的に装置を稼働させている。現在、原子力規制庁によれば、エネルギーバランスに占める原子力の割合は10%を少し上回る程度で、柏崎刈羽原発で1-2基を再稼働させたところで、大きな変化には結びつかない。これは、国内の原子力産業を復活させ、国民の信頼を回復するための一歩に過ぎない」
ウヴァロフ氏は想定されるリスクについて、どの原発も潜在的に高いリスクを抱えていると指摘する。
「2011年の福島原発事故後、日本の原発の運転をすべて停止したことは、過剰な対応だったと私は思う。福島の事故は社会を恐怖に陥れ、日本のイメージに大きな打撃を与えた。そして、世界の原子力産業をも大きく震撼させた。原発に対する安全条件は全面的に強化され、運転寿命も見直された。日本国内でも、独立の原子力規制委員会が新設され、専門家が世界で最も厳しいと呼ぶ新基準が策定された。だが、ドイツのように複数のエネルギー供給源を持つ国は、原発を放棄する余裕があるが、日本にとって原発は、安価で安全、かつ環境に優しいエネルギーを供給する唯一の手段だ」