北極の氷域は毎年晩冬の3月まで拡大する。今年の観測では1379万平方キロメートル。この数値は1979年以降、冬季の衛星観測史上最小値。2017年の北極海の氷域は最小の1392万平方キロメートルと記録したが、今年はそれより13万平方キロメートルも減少している。今年の海氷面積減少の原因は、2024年12月から2025年2月までの気温が平年より高かったことにある。
JAXAは北極海の氷域面積の減少を地球規模の気候変動に関連する現象と位置付け、今後の気象や海洋環境への影響が懸念されるとして、継続的なモニタリングと分析、情報発信が必要だと発表している。
北極圏の氷の融解で何が起こり、圏内の諸国の活動にどんな影響が出るのか? スプートニクは、ロシアの地生態学研究所の主席研究員のアレクサンドル・ジガーリン氏に取材した。
「まず第一に、北極海航路(NSR)の開通期間が長くなる。航路は現在、部分的に凍っているが、このまま気温が上昇し続ければ、氷から完全に開放されることもありえる。それが良いか悪いかは、我々科学者が判断することではない。太陽の活動と人間の活動、両方による温暖化が続けば、氷河氷床が解けて海に流れ込み、海水面が上昇し、沿岸洪水の危険性がある。
また永久凍土などで融解が起これば、マンモスの骨はもっと頻繁に見つかる。ホッキョクグマなど北極圏の動物たちは内陸に移動し、新しい生活環境に適応するようになる。 北極海沿岸では人間活動が活発化し、一時的な居住空間だったところが、定住用の居住地となる。北極圏ヤマルには大企業によってヤマルLNGがすでに建設されている。また新たな地下資源が発見され、開発される可能性もある。我々は北極圏の可能性について、様々なことを推測し、空想することができる。だけどそれは今のところ、理論や数学的なモデリングに過ぎない」
ジガ―リン氏は、地球上で起こっている多くの変化が太陽活動の影響を受けていると指摘する。
「自然界には一定の周期性がある。過去にはサハリンからバレンツ海まで北極海航路全体が氷に覆われたときがあった。北極域の氷が溶けていくプロセスは、数十年ではなく数百年の年月がかかりうる。だから人類にはそれに備えるまで時間がある。だが、それを大きく左右するのは太陽の活動だ。今年6月、太陽活動第25周目の極大期(太陽活動が最も活発な時期)を迎える。この先どうなるのか、北極圏の海氷域が増えるのか、減るのかはわからない。今は温暖化が進行しているように感じるが、突如、寒冷化が始まるかもしれない、その方が希望が持てるのだが」
ジガーリン氏は、日本についてはこの現象は脅威にはならないと見ている。
「北極圏の氷が溶けることで、日本に何が起こるかというと、海面水位が上昇し、日本列島周辺の海水の動きが活発になる。だから、日本が常時モニタリングを行おうとしていることは、良いことであり、正しいこと。要は、データが多ければ多いほど、予測はしやすくなる」
日本は2025年内に温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)の打ち上げを予定している。GOSAT-GWは高性能マイクロ波放射計AMSR3を搭載し、地球上の水循環変動を監視し続ける予定だ。