リハーサルは毎日行われている。これはピサレフ氏にとってボリショイ劇場では初めて、オペラの演出としては2回目の経験となる。ピサレフ氏は以前、スタニスラスフキー&ネミロヴィチ=ダンチェンコ劇場で、ロッシーニのオペラ「アルジェのイタリア女」を舞台にかけた。それからちょうど1年後、ピサレフ氏は自らが芸術監督を務めるプーシキン記念モスクワドラマ劇場で「フィガロの結婚」の演劇版を上演した。これは、台本の読み合わせから舞台装飾術まで古典的なものだったが、オペラでは現代的な演出が施される。ピサレフ氏は「オペラの扱いは難しい。私はオペラが好きだが、オペラはあまりにも抽象的でよくわからない」と述べている。そのためピサレフ氏は「フィガロの結婚」の舞台を20世紀に設定した。ピサレフ氏は、次のように語っている。
「私はそれが現実の人々、理解しやすい状況、私たちにとって分かりやすく、よく知っている人々にしたかった。私たちが単に座って偉大な音楽を聴くのではなく、誰に何が起こっているのか、そして彼らが誰なのかを理解できるようにしたかった。そのため私は舞台を1950年代から60年代に設定し、フランス映画やイタリア映画の様式を模倣した。だが物語全体は、古典的な雰囲気を残している。この物語を生き生きとした新鮮なアイロニーを含んだ言葉で語るのはとても興味深い」。
スザンナ役を務めるのは、ボリショイ劇場オペラ団のソリスト、アンナ・アフラトワさんだ。今から10年前、まだボリショイ劇場オペラ団に入団する前、アフラトワさんはモスクワの音楽会館「ドーム・ムージキ(音楽の家)」で、スザンナのアリアを歌ったことがある。しかし、20世紀を舞台にした「フィガロの結婚」に出演するのは今回が初めてだ。アフラトワさんは次のように語っている。
「フィガロとスザンナはとても活動的で、素朴です。舞台では、物語全体に2人の活発な様子が織り交ぜられています。なぜなら劇作家のボーマルシェがそのように意図したからです」。
モーツァルトは1786年に「フィガロの結婚」を完成した。当初はあまり成功しなかった。しかしプラハで上演されてから数ヵ月後、「フィガロの結婚」は、欧州で最も人気のあるオペラの一つとなった。
ボリショイ劇場では、古典的なオペラが現代的な演出で上演されるが、前衛的あるいは衝撃的な場面はない。レチタティーヴォ(朗唱)は少なくなるが、モーツァルトとボーマルシェの「ムード」は、最大限伝わってくるものとなる。音楽を担当するのは、昨年からボリショイ劇場と協力を開始した英国の指揮者ウィリアム・レイシー氏だ。レイシー氏は、17-20世紀の作曲家のオペラ100作以上をレパートリーに持っており、米国の主要な劇場やパリのオペラ=コミック座などの指揮者も務めている。
ボリショイ劇場の「フィガロの結婚は、4月25日にボリショイ劇場の新館で初演を迎える。またボリショイ劇場は夏に向けてもう一つのサプライズを用意している。ボリショイ劇場では7月、ロシアの古典文学作家ミハイル・レールモントフの有名な小説「現代の英雄」をモチーフにしたバレエが世界初演される。演出は、2011年にボリショイ劇場でロシアの作曲家リムスキー=コルサコフの最後のオペラ「金鶏」を演出したキリル・セレブレンニコフ氏だ。