未来の劇場の芸術監督に任命されたのはタガンカ劇場の演出家ヴラジスラヴマレンコ氏だ。マレンコ氏は、「新タガンカ」をつくるのが理想だと語っている。なぜならタガンカ劇場は、偉大な演出家ユーリー・リュビーモフ氏によって創設されて以来、常に言葉、詩、音楽を組み合わせて演目を創り上げてきたからだ。
「詩人劇場」の場所はまだない。そのためマレンコ氏は芸術監督もまだこの世には存在していないと皮肉交じりに語っている。一方で「詩人劇場」は非常に興味深いプロジェクトだ。マレンコ氏は、ラジオ「スプートニク」からのインタビューに、次のように語った。
「モスクワには今、あまり好ましくない環境で詩を用いて交流している若者がたくさんいます。夜にカフェに行くと、少年少女がフォークやスプーン、コップの音が鳴り響く中で自作の詩を詠んでいる姿がみられます。ある時、同じ考えを持つ友人たちと、これは詩にとってはあまり良い『伴奏』ではないとの結論に達しました。私たちは、このような若者たちをフォークの音が鳴り響くレストランから劇場へ 連れ出して、スタートに適した場所を提供し、彼らがそこへ自分の友人、知り合い、お客さんたちを招くようにしたいのです。このようにして「詩人劇場」のアイデアが生まれました。」
新劇場の概念はたくさんある。もしかしたら舞台で詩を朗読することかもしれないし、音楽や動画を組み合わせた詩の朗読になるかもしれない。とにかく、オリジナル性に溢れたものになるのは間違いない。いま並行して俳優の選抜と稽古が行われている。マレンコ氏は、次のように語っている。
「私たちは、約1000人のアマチュア詩人の中から100人を選びました。そして今もライブモードで予選が行われています。すごい熱気です!選択の幅はとても広く、1980年代にも1990年代にもこのようなことはありませんでした。どうやら今、大気中に『詩的な振動』が現れたようです…選抜では、興味深い人たちが見つかります。たとえば、ノボシビルスクの主婦などです。彼らの中には、才能のある人たちがたくさんいることが分かりました。一方で、劇場の概念は現代詩に限られてはいません。私は、マンデリシタームの詩による演目を上演したいと思っています。レフ・トルストイの『セヴァストポリ物語』をモチーフにした、現代詩の詩的なコメントを入れた演目はほぼ準備が整っています。戦時中の詩人の詩による演目を上演するという案もあります。パヴロ・ピカソの詩による舞台をつくるというアイデアも生まれました。ピカソは詩も書いており、ロシアのウラジーミル・マヤコフスキーとも会っています。バルセロナにあるピカソ美術館は、私たちのアイデアを支持しました。」
プロジェクトを推進するグループはすでに形成された。音楽を担当するのは、サックス奏者のセルゲイ・レトフ氏、人気のある俳優のアナトーリー・ベールィさんも演出家を務めるほか、
文学賞「トリウムフ」の受賞者エレーナ・イサエワ氏が脚本を担当し、ここに詩や演劇を愛する人々が参加する。マレンコ氏は、次のように語っている。
「これはプロの俳優、興味深いプロやアマチュアの詩人、音楽家、画家たちが何か完全に新しいものを作り出す実験室のようなものです。メンバーに加わった人たちは全員熱意に燃えています。ロシアでは2015年、文化年が制定されているので、私たちは毎日全力で活動します。」
恐らく、「詩人劇場」はモスクワ中心部のアルバート地区にできると思われる。なぜならここはモスクワの観光名所の一つだからだ。この劇場はモスクワの住民とこの町を訪れる観光客にとって、ソ連時代以降なかった芸術集団による音楽や詩のベールに包まれた特別なものとなるだろう。