この80年間の利用者は総計1450億人に上るとされる。一日の利用者は800万人超。モスクワ市内で各種の輸送機関を利用する人のうち、56%が地下鉄を利用している。運転手の数は4300人。地下鉄職員全体では4万6000人。運行の頻度、信頼性、輸送量において、モスクワ地下鉄は世界の地下鉄の中で不動の首位を占めている。
しかしモスクワ地下鉄は、ただの輸送手段ではない。それ自体、歴史と伝説、掟をもつ、ひとつの世界をなしている。
ヒットラーの軍隊がソ連を攻撃したとき、モスクワ地下鉄は、打ち壊しを検討された。敵が利用しないように、というわけだ。しかし命令は撤回され、1943年、モスクワ空爆が止み、灯火管制が解除される直前まで、地下鉄は巨大な防空壕となった。この間に地下空間で生まれた子供も217人に上っている。駅では商店や美容院が稼動し、「クルスカヤ」駅は図書館になった。しかも、驚くことに、この大祖国戦争の年間も、地下鉄の建設は続けられたのである。国民に、また全世界に、モスクワは生きている、モスクワは負けない、と知らしめるために。
もともとモスクワ地下鉄の各駅は、「人民のための宮殿」として建設された。特に深い印象を与えるのは、1930年代末に建設された、「ジナモ」や「マヤコフスカヤ」に代表される、今や「古典」とも称すべき駅たちである。1938年のNY国際博覧会では、ある駅の建設プランがグランプリを獲得した。種類の異なる大理石をふんだんに用いた「プローシャジ・レヴォルーツィイ」駅は、まさしく地下ミュージアムの名に値する。この駅には76体の彫像がある。労働者、軍人、子連れの母、ピオネール(共産主義少年団)、イヌ、雄鶏。注目は、イヌを連れた国境警備員である。古くからモスクワ市民に愛されている一体だ。あるときモスクワの学生たちの間に、ひとつの迷信が生まれた。このイヌの鼻をなでると試験でいい点がとれる、というものである。今や誰もがイヌの鼻をなでて通る。ブロンズ製の鼻周辺はめっきが剥落し、てらてらに輝いている。
モスクワ地下鉄の記念日に向け、様々なイベントが行われた。15日当日には世界21地下鉄の総裁がモスクワに集まった。また15日から16日にかけて、環状線では電車のパレードが行われている。珍品から最新型まで、種々の車両が列をなした。また、ロシアの人気俳優たちも加勢した。著名な映画俳優や歌手、音楽家22人が、5月一杯、駅名アナウンスを担当する。慣れ親しんだイントネーションを、市民は楽しんでいる。
当ラジオはモスクワ地下鉄開業80周年について、19日放送の「文化の世界」で詳しくお伝えする。