これについて元IMF日本代表理事で現在、キャノングローバル戦略研究所の研究主幹をつとめる小手川 大助氏はラジオ「スプートニク」からのインタビューに対し、日本がウクライナ危機の解決を助けるというのは安倍首相の主要な課題ではないとして、次のように語っている。
A:「 内容がわからないとはっきりしたことはいえませんが、もし記事が効果があるなら、私の推測では安倍首相にとって一番重要なことは、今年中にプーチンさんに日本に来てもらって、日本とロシアとの問題、つまり平和条約の欠如と北方領土問題を早く解決して、日露関係を早く普通にすること、またこれによって政治家としての自分の名前を将来まで残したいということなのです。これを考えますと、日本が今のウクライナ問題に何らかの貢献ができないかということで行動しているのだと思います。日本は、欧州でも米国でもなく、ロシアでもないという、割合中立的な第3者として今回の問題に対応できるので、そうした立場からロシアとウクライナの間の問題を何とかいい方向にもっていきたいという主旨だと思います。」
Q: ウクライナ問題で一般に欧米日本はロシアがクリミアを併合したと批判していますが、ウクライナ危機では誰が悪いと思いますか?
A:「ウクライナ問題は米国が大きく関係しています。米国の中でも伝統的な勢力、すなわち軍、国務省、国防省の大多数の人は1年前にマイダンで起こったことについて極めて批判的です。じゃあ、だれがマイダンを起こしたかというと、国務省でウクライナを担当していたヴィクトリア・ヌーランド局長とキエフにいるパエット米大使という非常に少数の人たちとこれらに近いスーザン・ライスや国連大使のサマーンタ・パワーという、オバマ大統領に信任の厚い人たちが独走して起こしたようなものだと思います。
ただ最近米国内ではこれらの人たちの発言力が弱まってきており、もう一度ロシアと仲良くしようという勢力がだんだん強くなってきています。そのひとつのいい証拠が3週間ほど前にケリー長官がロシアのソチを訪問し、ラヴロフ外相、プーチン大統領とあったことです。しかもケリーさんはそのあと中国にもいっているということは、米国政府内でロシアと仲良く、中国とも対立せずに仲良くやっていこうという人たちの力がやっと回復してきましたので、いい方向に行っていると思います。
それとウクライナは自力ではロシアと対抗できないし、経済もやっていけませんから、欧米からお金とか武器をなんとかもらおうと挑発的なことを続けていますが、それについてもケリーさんがプーチンさんと実際会ったあとの記者会見で、ウクライナのポロシェンコ大統領にむけて、そういう挑発行為をしないよう、非常に強く発言していますから、全体的な方向としては、今いい方向へ向かっていると思います。」
Q: 首相官邸の声明では、安倍首相がウクライナ訪問でポロシェンコ大統領と会った際に、ウクライナ問題の平和的解決のためにはロシアと交渉するよう促すつもりだということです。私見では、ポロシェンコ大統領はドンバスの指導者と交渉を行わねばならないとおもいます。小手川さんは、安倍首相はポロシェンコ大統領にドンバスと交渉するよう促すと思いますか?
A:「日本外務省が安倍首相のために作成したペーパーに、ポロシェンコさんと会ったら何を言えというレクチャーが書かれているのか、その現物を私は持っていないので、わかりません。ただし、基本的な主旨としては日本は今までウクライナの件については直接関与はなかったのですが、やっとここまできて日本政府としても何らかの形で関与してみようという一歩を首相官邸、外務省が踏み出したのではないかと思います。
ではそれをどういう方法で行うかというと、先に述べたように安倍首相は今年中にプーチンさんに来てほしい。それからプーチンさんの訪日前に岸田外相がロシアに行く必要がありますが、実際に周りの環境を見ますと、米国政府内で再度ロシアと仲良くしようという人たちが力をもってきています。これを見て、日本政府も今回の問題になんらかの形で関与し、ロシアへの圧力を減らして、それでプーチンさんがちゃんと日本にやってこられるような環境作りができないものかなということで今、動いているんだと思います。」
安倍首相が本当に対露関係の改善を欲しているならば、ロシア側も日本の首相のウクライナ訪問、ポロシェンコ大統領との会談がキエフ側の政策を変えさせ、ウクライナ危機の平和的解決を促すことを期待してもいいことになる。仮に安倍氏はこれに成功を収めれば、歴史に偉大な政治家として名を残すということに大きく前進することになるだろう。