ソ連崩壊後、米国の対外政策は、ほぼ経済制裁と武力の行使だけで成り立っている。唯一の超大国となった米国の、政治的パワー、軍事的パワーは強大であり、それを理由に、米国は「説得」することをやめ、「圧力」をかけるようになった。「強制」ということを第一の選択肢とするようになり、友好国であれ敵対国であれ、誰彼かまわず圧力を行使するようになった。米国は近年、西アジアおよび北アフリカの戦争ないし対テロ作戦で、おびただしい数の人を殺している。多くの血が流れた。米軍自身も、多くの生命が傷つけられ、または奪われた。そのような戦争に資金が費やされ、金融が滞り、経済は弱体化したのである。
米国にとって、あらゆる戦争の目的は、敵方の「無条件降伏」である。ゆえに、米国には、戦って勝ち、その相手と交渉を行うことによって戦争を終わらせる、という、人類がこれまでずっと積み重ねてきた経験が、欠如している。なぜそうなったか。行き過ぎた自己過信と、外交能力の無さのゆえだ。米国の外交は未だにプロフェッショナルな水準に達していない。外交課題の成果の分析を行うシステムが欠けているため、外交経験の蓄積から何かを学ぶということが出来ない。外交は、米国の民間教育機関の一環を成してはいない。ゆえに、エリートすら、外交とは何をすることなのか、外交とはどのようにするべきものなのか、理解していない。米国の信念によれば、国際関係などはアマチュアでも処理できる事項なのである。その結果は周知のとおり。地政学をパワーひとつで乗り切ろうとする心根のせいで、外国が荒らされ、世界のあちこちで、米国に対する憎悪が拡がっている。また、経済制裁というやり方も、厳しい批判に値する。制裁は実業界にダメージを与え、制裁対象国の保護主義を加速させる。
元国防長官補で駐サウジアラビア大使も務めたチャス・フリーマン氏は「ザ・アメリカン・コンサバティブ」紙に以上のように記した。