Q:全般的に、安倍政権の対ロ外交をどのように評価しますか。
A:2013年までは良好な対ロ外交が安倍政権のもとで行われていたと、高く評価をしています。首脳同士何度も面会して親しい関係を築き、2プラス2(外務・防衛担当閣僚会合)も実現しましたから、今までになく期待していました。そのタイミングでウクライナ問題が起きてしまいました。日米同盟がありますから、アメリカが経済制裁をするにあたり、日本が黙って見ているというわけにもいきません。
しかし、2013年の当時に日ロ両国で築いていた好ましい環境というのは、今も何ら変わっていません。当時と、現在との間に、ウクライナ問題が「挟まっている」というだけのことです。安倍総理としては今までのロシアとの良好な関係の延長線上で、アプローチを続けていけばよいと思っています。欧米の立場と日本の立場は違います。安倍総理が実現に向けて動いている、プーチン大統領の訪日については、賛成です。タイミングは見極めなければなりませんが、関係が難しいときだからこそ顔と顔を合わせ、対話の機会をもつことが重要です。
A:非常に大きな影響が出ると思っています。全ての中型漁船が今回、出漁取りやめになりました。中型漁船が漁場としていたのは、ベニザケがよくとれる場所です。漁船は根室管内からだけではなく、青森や富山からも出ていました。これらの地域にも影響が出るでしょう。また問題は、単に漁船の利益にとどまりません。ベニザケを加工する水産加工会社にも影響が波及します。
流し網漁禁止法案がロシア上院でも可決されたことで、影響額は相当なものになります。国としても北海道としても対策を考えなければなりません。一部試算によれば、流し網漁の禁止による日本の損失は251億円、北海道だけでも159億円にのぼるとされています。もともと流し網は伝統ある漁法なので、国内の産業体系として既に確立されています。漁獲→加工→販売という一連の流れが流通を含めてしっかりとできているので、サケマスがなくなる…ということの影響は様々な分野にまたがるでしょう。
Q:日ロ間に長く続いた密漁の問題はどうなっていますか。
A:密漁が一番多かったのはカニでした。これを受け昨年、水産物の密漁・密輸出対策に関する日ロ協定が発効されました。この協定は,ロシアの国内法に違反してカニが密漁され,ロシア国内で正規の手続を経ずに日本へ密輸出されることを抑止するものです。ロシアもより強固に密漁を取り締まるし、同時に日本も輸入をしない、ということを取り決めました。これによって日本ではロシア産のカニが激減しました。日ロの二国間で水産資源対策ができたことは非常に良かったと思います。既に日本とロシアの密漁船はほとんどありませんが、東アジア(中国、韓国、北朝鮮)の密漁船はまだ日本海域にいます。昨年ニュースになった中国による赤珊瑚の密漁は、罰金の引き上げや中国との二国間交渉で、解決できました。これらの例に見るように、二国間で対話し、対策を練ることが最も効果的です。
A:特に深い関係にあるサハリンには、北海道が得意としている「寒冷地住宅」並びに「寒冷地でのエネルギーの使用法」の面で、日本からの技術提供ができると思います。日本はかつて公害がありましたが、それを克服した国でもあります。工業技術の発達と環境保護を両立できる技術を提供していけるでしょう。
Q:今後ロシアとどのように付き合っていくべきでしょうか。
A:ウクライナ問題と、日ロ二国間の関係とは切り離して考え、アプローチすべきです。ウクライナ問題には、日本は国際社会の一員として対応していくのであって、ポロシェンコ大統領との面会もその一環です。いっぽう日ロ間の検討事項としては次のようなものがあります。東アジアの安全保障環境はここ数年で好転していません。そしてエネルギーについて言えば、日本は原発事故があって以来、政策の大きな見直しを迫られています。ということは、サハリンのガスプロジェクトは、輸入の可否はともかくとして、日本にとって検討するべき課題です。これらの課題は2013年当時から変わっていません。来年は日本が議長国となって開催するG7があります。先にも述べた通り、ウクライナ問題と、もともと存在した日ロ間の課題とは別個にして考え、ロシアとの関係はしっかり構築していくべきです。
聞き手:徳山あすか