米国は第二次世界大戦後、この複雑なアジア太平洋地域に、強固な土壌を見出したように思ったのだろう。そう語るのはモスクワ国立国際関係大学東洋学部長ナタリイヤ・スタプラン氏だ。
「米国は戦後の全期間を通じてアジア太平洋地域にプレゼンスを有してきた。その間、かなり明確な安全保障システムを構築してきた。最初の段階ではそれは二国間安全保障同盟システムであったが、21世紀に入ると政策の見直しが行われ、変化する情勢に合わせ、安保政策の強化が行われている。一方では戦後最大の脅威であったソ連が消滅した。しかし他方では、新たに、わけのわからぬパワー、中国が台頭してきた。中国は間もなく、米国にとって、また地域全体にとっての新たな脅威として解釈されるようになった」
中国の台頭に直面した米国は、既に古びた、経験済みのシナリオを、アジア太平洋地域にも適用することを決めた。そう語るのはロシア国際問題評議会メンバーのグレブ・イワシェンツォフ氏だ。
「4年前の2011年、オバマ氏は、米国のアジア回帰を宣言した。回帰とはどういうことか。第一に、日本や韓国、豪州など、従来からの軍事同盟の強化。さらに、他の国とも新たにパートナー関係を結ぶこと。同時に、経済的な働きかけもなされている。中国がAPECで自らの立場を強化しつつあることに対抗し、米国は米国主導のTPPというフォーラムを創り出そうとしている。しかし今のところ、希望は現実化していない」
TPP交渉は数年越しに行われているが、まだ妥結の見通しはついていない。ナタリヤ・スタプラン氏はそう語る。
「米国の同盟国であり、かつ最大の貿易相手である日本が交渉に加わると、交渉は座礁してしまった」
TPPには米国の国内からも反発の声が上がっている。TPPは米国の製造業に打撃となる、と言うのである。オバマ氏とその前任者たちが中国を圧迫しようとした結果、米国自身の内部で対立が起きてしまっているのである。