ロジャース議員は、中国が自らの人工衛星を破壊する実験を行った経緯を振り返った。つまり中国は米国のあらゆる人工衛星を撃墜できるのである。中国の脅威を退けるためには、宇宙空間にMDの盾を構える必要がある。議員はこのように述べた。専門家も議会周辺の記者たちも、これら発言を飲み込んでしまった。こうした発言は、専門家たちの間には、懐疑的な微笑以外の何物も呼び起こすことがない。特に、宇宙空間へのMD展開について語った部分について。
いま米国が運用している軍事衛星が100あるとすれば、中国の攻撃から身を守るためには、少なくともあと100基、何らかの攻撃手段を持つ衛星を打ち上げなければならなくなる。宇宙軍団が倍増する。加えて、中国のミサイル発射を感知するシステムが必要になる。ミサイルは、様々なタイプのものがあり得、搭載される弾頭も、様々なものがあり得るだろう。そのそれぞれについて、違った防御手段を使わなくてはならない。軍事が専門のウラジーミル・エフセーエフ氏は、この点について、次のように述べている。
「MDシステムを大々的に構築するなどという決定が取られることはあり得ない。米国はそんなものには惹かれない。高くつき過ぎるのである。議員の発言は馬鹿げている。彼は何の話だかよく理解しないで言っている。米国の政治家たちは、声明を出す前に、問題の本質をよく吟味する必要があると思う。そうすれば、「中国の脅威」なるものといかに戦うかという点について、違うアイデアも出てくるだろう」
仮定の話としては、宇宙空間に武器を投入することは、ロシアにも中国にも、その他の国にも出来る。ここでは米国は独占的な地位にはいない。ただし、米国の宇宙軍団が一番脆弱である。一番数が多いからである。専門家らは、米国の宇宙機器を狂わせ、あるいは故障させる、十分に効果的な手段を講じることは可能であると断言している。
米国が兵器の宇宙空間投入について何らかの決定を下した場合には、ロシアと中国は対衛星システムの構築を促されるだろう。対衛星システムは現状では、一応稼動させられる可能性もあるとは言え、基本的には開発段階である。それらシステムを展開することまでは、ロシアも中国も考えていない。むしろ両国は米国に対し、兵器の宇宙空間配備を断念するよう呼びかけ、宇宙空間における行動の規範を策定することで合意しようと努めている。まずは、誰も宇宙空間に武器を持ち込まないように、との点での合意を目指している。米国もそのことを関知してはいるが、ロシア・中国と合意を結ぶことは拒否している。米国はどうやら、違う方向性を選ぼうとしているようだ。つまりは、武器を宇宙に配備し、「スターウォーズ」に備えるという方向性を。再びウラジーミル・エフセーエフ氏。
「米国が仕出かす可能性のある愚行の中でもその最たるものが、武器の宇宙空間投入である。米国も、それを大規模に行うことは出来ない。しかし武器を局所的に宇宙に投入すれば、それらシステムを効果的に攻撃するシステムが創られることになる。それに、米国が配備しようとしているシステムにうまく対抗できるような、より安いシステムが既に存在しているのである」
しかしその場合、「スターウォーズ」のメカニズムが既に始動し、何らかの合意を結ぶことは、全く手遅れであるか、さもなければ困難である。宇宙空間における行動の規範について、今ならまだ合意を結ぶことも出来る。今ならまだ、欧州にせよ、ロシア・中国にせよ、他の誰かにせよ、何らかの形で合意が結ばれる希望もある。