ロシア科学アカデミー東洋学研究所のエレーナ・フォミチェヴァ上級学術研究員は、こんにちイスラムというファクターは地域の多くの国々で重要な役割を演じているとして、次のように語っている。
「フィリピンには南部に『モラ』という組織が存在しており、武装戦闘行為に訴えている。イスラム教はこの地域に暮らすマレー人の宗教で、ここには分離主義運動、つまり組織がいくつかある。かなり長い時間のなかで彼らの一部は破壊工作や武装攻撃に訴えている。この運動体の起源はかなり昔にさかのぼる。もともとはイスラム南部の分離を求めて戦っていたもので、これらの県がタイに編入された段階から存在している。これはもともとマラッカ王国だったものだ。ここでの問題は経済、社会、宗教のすべてに絡んでいる。つまり唯一のタイという国の枠内でこの地域がどれほどのレベルの自治権を獲得しうるかという問題だ。ミャンマーのイスラム教徒については最近、少数民族ラヒンチャの置かれた状況が大きな反響を呼んだ。彼らは大体がバングラディシュ出身でミャンマーのパスポートは有していない。」
「東南アジアには仏教、イスラム教という2つの文明が衝突している。そして伝統的には仏教国である地域でイスラム急進主義の攻撃や、国家転覆の試みにイスラム急進主義のグループが参加している様子が目に付く。またこうした国のなかで仏教国をイスラム急進主義の伝統に変えようとするイスラム急進主義集団のプロパガンダが活発化している。この傾向はインド・中華系国家のみならず、世界全体で見られる。たとえばアフリカではイスラムがアフリカ諸国の伝統的な文化に対抗している。」
イスラム急進主義組織の多くは、インドネシア、マレーシア、シンガポール、ブルネイの一部、フィリピン南部、タイでのイスラム国家建設の構想を隠そうともしていない。これは単なる構想ではあるが、これが有ることを考えないでもいいというわけではない。「イスラム国」にとってはこの地域は何の利益もないはず、とたかをくくるのは危険だ。たしかに「イスラム国」にとってはこの地域は世界のイスラム帝国形成の課題には含まれていない。だがジハード主義者らはすでにPRのルールも、古典的レトリックの方法もものにし、運動がたゆまず前進し、新たな目標を目指すことが出来るよう見事な条件を整えている。