ロシアの著名な中国専門家で高等経済学院国際協力課のアレクサンドル・ルキン代表はこれと意見を同じくしている。
「中国の増強プロセスは客観的現実であり、隣国たちも何らかの形でこれを受け入れる必要がある。中国の国力が増すほどに、防衛費も増大していく。もっとも、中国を軍拡に突き動かすのは、日本である。日本では安倍首相が憲法修正政策をとり、それが中国では挑発として受け止められている。しかし今のところ、中国の増強は、何ら中国の外交政策に深刻な変化をもたらしてはいない。中国は基本的に、一度も、誰のことも、とりたてて脅迫したことはない。日本にとっての脅威というのは、中国の軍事力増大というよりは、中国の民衆が、対日関係において悪い方へ変化していることにある。私はまだ覚えているが、1980年代、日本は中国で、ほとんど最良の友として見られていた。
日本は中国人にとって偉大なるアジアの国家として、学ぶべき模範として受け止められていた。30年が経ち、日本は中国の指導部ばかりか中国の民衆にとっても「敵」になってしまった。日本という言葉そのものが中国では罵詈雑言の類になっている。中国国民は日本に対し、むしろ政府よりも悪い立場をとっている。政府のほうが反日気運をなだめようとするくらいだ。それらは、日本が第二次世界大戦に対する責任を認めることを拒否したことによってもたらされた。その点、ドイツは今や「普通の国」になり、つまり、非常に慎重にではあれ、軍隊を強化している。それでも一定の危惧は呼んでいるのではあるが、やはり日本に対する危惧よりは遥かに小さい。なぜなら、ドイツに対して、「自らの軍国主義の過去を脱却していないではないか」と非難することは、誰にも出来ないからである。しかし、ドイツであればすぐさま牢屋に入れられるような第二次世界大戦に関する美術館を開いたり、イベントを企画したりすることが、日本では可能なのである。こうした状況では、日本軍の強化はアジアの多くの人に、軍国主義の再来として受け入れられてしまう。過去の屈辱が思い出させられてしまう。そうしたことが、いつか、日本にとって不愉快な政治的アクションとして発現するのである」
「クリル諸島にロシアの軍人がいること、またそれが強化されていることは、クリル諸島をロシアの手元に置き続けることの外に南クリルに関する計画はロシア政府には存在しない、ということの証左である。もっとも、日本も米国も、かつてロシアが極東に有していた潜在力は復旧にはほど遠い状態であるということをよく分かっている。しかし、ロシアを恐怖で覆う試みが進行している。オバマ大統領はロシアをイスラム国と並ぶ世界の驚異に仕立て上げた。負けじと日本は、規模においては遥かに劣るものの、クリル諸島へのロシア兵の駐屯を脅威と規定した。ロシアがウクライナで行っているという「ハイブリッド・ウォー」への言及が防衛白書に見られることは、ロシアとの関係を発展させるなという、米国からの要求に対する、日本からのリアクションである。
西側に言わせれば、ロシアはクリミアを併合した。それに対して全西側世界が一致した立場をとろうというのが現況である。そんな中で日本は、米国への同盟国としての忠誠を裏書しようと、こうした文言を白書に載せたのである。しかし、ロシアを侵略者と呼ぶ一方で、ロシアと交渉を行うことは出来るらしい。先日、ロシア連邦保安庁沿岸警備隊の船艇と日本の沿岸警備艇の合同演習がコルサコフ地区で行われ、海上の救難活動に関する訓練がなされた。しかし、私にとっては、防衛白書の当該箇所は、次のただひとつのことを物語るのみだ。すなわち、日本が肯定的に評価するところの露日関係上のこれらイベントは、純粋に一時的な性格のものであり、いわゆる北方領土返還という具体的課題を解決するためだけに必要なのであって、これら文言の中には真の協力関係への志向は存在しない、ということ。そしてそこには、相互安全保障や露日両国民の相互の発展と成長という観点からは、何ものも存在しない、ということだ」
ロシア人専門家らによれば、中国やロシアの増強に対し自らの軍事ポテンシャルを増大させ、また米国との軍事的・政治的同盟関係を強化するという反応をとったのは、日本の短慮だった。隣国との関係における危惧感は、オープンな対話で拭い去るのが上策だ。そう語るのは、日本の著名な政治家、浜田和幸参議院議員だ。
「私の考えではそういう問題を解決する上で、ロシア、中国と信頼関係を結ぶことではじめて抑止力が発揮できるんですね。だから一方的に中国の脅威を騒ぎ立てることで問題が解決するとはとても思えません。総理とすればもっと対極的な観点から中国との首脳会談でしっかり話し合う、プーチン大統領に日本に来てもらっていろんな課題について真摯に話し合う事が大事です。それをやらずに中国が軍事的拡張路線をとっているとか、北朝鮮が危ないとか、ロシアが危険だというのは地域全体の繁栄のためには役に立たないと思います」