オーストラリアはまだ最終的な決定を下してはいない。なぜならオーストラリアは、すでに用意の整った潜水艦だけでなく、その建造技術も入手する方針だからだ。日本の競争相手は、ドイツのティッセンクルップ・マリン・システムズ社と、フランス海軍の艦艇を建造しているDCNSだ。ドイツは、潜水艦の建造経験が最も豊富で、その信頼性は確固たるものがある。フランスは、オーストラリア側に、潜水艦が潜在的な敵のレーダーに探知されることのない貴重な技術を提案した。しかしフランスが外国のパートナーに独自のノウハウを販売するのは初めてだ。日本も契約締結を夢見ている。なぜならこれが実現した場合、安倍政権が昨年、武器の輸出を解禁してから最大規模の取引が成立することになるからだ。
そうりゅう級潜水艦には、米国製のナビゲーション装置や武器が搭載されている。もしかしたら、そのために米国は、日本の利益に基づいてこの問題に対処するよう、オーストラリアに影響を与えようとしているのかもしれない。その他にも米国は、日本とオーストラリアの関係が強化されることに明らかな関心を持っており、両国がアジア太平洋地域でより活発に役割を果たすことに期待している。
オーストラリア政府の方針は、労働組合と野党側から反対を受けた。労働組合などは、外国から潜水艦を購入することで、国内造船業がネガティブな影響を受け、数千人が職を失う恐れがあると考えている。野党も、自国の労働者が犠牲となって、73年前にシドニー湾を攻撃した国に受注を奪われる恐れがあるという事実に憤りを表している。オーストラリア政府の代表者はこれを受け、政府は「地元の造船業者たちの就職斡旋所」ではないと発表した。しかし7月初旬、この問題を調整するために、大きな影響力を持つオーストラリアの ニック・ゼノフォン上院議員が、日本を訪問した。ゼノフォン議員は、テレビABCのインタビュー
「オーストラリア政府は現在、互恵的な協力の最善の選択肢を選ぶために、日本の潜水艦を自国の造船所あるいは日本で建造することの長所と短所を全面的に調査している」と語った。
ロシアの雑誌「武器輸出」の編集長を務めるアンドレイ・フロロフ氏は、日本が入札で勝利する可能性は依然として高いとの見方を示し、次のように語っている。
「日本のそうりゅう型潜水艦は、最大規模のディーゼル・エレクトリック方式の潜水艦と考えられており、その大きさは原子力潜水艦に近い。潜水艦の無線電子工学システムは、大方すでに原子力潜水艦に合致している。日本の潜水艦の重要な特徴は、スターリングエンジンを基盤としたスウェーデンの技術を導入した非大気依存発電装置だ。すなわち酸素を取り込むために浮上しなくてすむ。また充電するために浮上する必要もない。これは、追加的なステルス性と考えることができる。一方で、価格は非常に高価だ。私は、原子力潜水艦に匹敵する価格だと考えている。しかし、よく知られているように、軍事・技術協力とは、技術だけでなく、政治でもある。そのため恐らく、この契約によって、太平洋諸国が経験している中国の脅威が高まる中で、各国の関係が強化される可能性がある」。
オーストラリアの潜水艦を建造する権利をめぐる争いは続いており、まだ勝者は決まっていない。