ただし、両発言は矛盾してはいない。そう語るのはモスクワ国立国際関係大学軍事政策研究所のアレクセイ・ポドベリョースキン氏だ。
核廃絶への新たなイニシチアチブをめぐる安倍首相発言だが、これは日本を含む西側ローカル文明に連なる一部諸国の核兵器に対する否定的態度の増長と関係するものだ。何を隠そう、いまや軍事方面でロシアとインド、はたまた中国の相対的主権を保障してくれるのは、核兵器、特に戦略核兵器だけなのである。これ以外の主権兆候の全ては近年、著しく弱まった。しかし核兵器という兆候を保持することは、核兵器の全廃に前向きな米国の好むところではない。なぜなら西側文明とロシアもしくは中国の軍事力の比率は核兵器を抜きにすれば20対1だ。核兵器があってはじめてロシアまたは中国またはインドは一種の平衡を保てるのだ。
また今米国で非核戦略兵器に関する多年の作業が具体的に実を結びつつある。非核弾頭を積み、5000kmを射程とし、精度の高い、誘導ミサイルなどだ。この高精度により、かつて核ミサイルにしかなしえなかった、弾道弾シャフト等のよく防御された標的を撃滅することが出来るのだ。米国と日本が努力を傾注してきた軍事技術部門の成長によって、核と同じ機能を果たす非核戦略兵器が誕生するのだ。これにいま日本の参加のもとで米国が創ろうとするMDシステムを加えれば、露中のような核大国に対するあらゆるレベルの紛争で戦略非核兵器が使われ、軍事的勝利が挙げられる可能性がある。
米国は大分以前から核廃絶を訴えている。明らかに米国とも合意の上で、今回日本が似たり寄ったりのイニシアチブを出した。ポドベリョースキン氏は言う。唯一の被爆国として、日本は十全に倫理的な権利を持っている。しかし、世界を核から解放するという立派な取り組みは、ロシアと中国を非武装かするという、まったく立派でない最終目的を持っている。ロシアと中国は武装解除を望まず、核廃絶のイニシアチブを支持していない。このようなロシア・中国は残酷なモンスターであり、進歩的人類の敵であると批判されるだろう。かわりに非核戦略兵器開発にいそしむ米日は平和の擁護者に見える。