スプートニク日本のリュドミラ・サーキャン記者は、この「マイナンバー制」の持つメリットとデメリットについて、新潟国際情報大学の越智 敏夫(オチ・トシオ)教授に国際電話をかけ、御意見を伺った。越智教授は、次のように答えている―
「メリットは、本質的には政府の側にある。これまで年金や税金など各個人の、特に経済的状況について、日本では所謂『縦割り』行政で行われてきた。税務署と貯金に関するところ、給与に関するところが、すべて別のセクションによって管理されていた。これは、政府にとって不便な状態だった。それが、今回の『マイナンバー制』で一括管理できるようになるので、政府にとってのメリットは大きいと思う。
デメリットについて言えば、考え方により異なるだろうが、例えば、表現は奇妙かもしれないが『脱税をする人達』、つまり個人として自分の経済状態について、あまり政府に管理してもらいたくない人々にとっては、新制度により、すべての収入や貯金、税金などが分かってしまう可能性がある。特にアルバイトなどの副業をしている人達の中に、困る人が出てくるかもしれない。
しかし制度的に見て、大きな問題というのは、別の点にある。今の政府の税金体系、特に年金に関する部分など、仕組み自体が不十分なところがあるからだ。年金データの漏洩といった事件があったように、政府の側の年金の仕組みがしっかりと出来ていない中で『マイナンバー制』を導入する事で混乱が起きる可能性がある。また個人情報が外部に漏れないのか、といった大きな問題もある。」
続いてサーキャン記者は「『マイナンバー制』のようなものは、世界の数多くの国々に存在しているが、日本での受け止め方はどうか」質問した。越智教授は、次のように答えている―
「もともと日本社会においては、サラリーマン等の企業労働者とか公務員が多いせいで、税金に関する意識がそれほど高くない。給料が、そもそも税金が『天引き』されてから渡されるからだ。確定申告をするような労働者は、それほど多くない。そのため『マイナンバー制』に対し、これでどこが変わるのだろうかという、いまいち実感がない。しかし、制度導入によって、自分がどれくらい税金を払っているか、どれくらい年金の基礎額を払っているかが分かる事で、一人一人の人間が納税者としての意識が覚醒され強くなると思う。これが、政府そのものが意図していない、制度導入の副次的な作用だと思う。」
最後にサーキャン記者は「日本には今、自衛隊の海外派遣とか原発の再稼働とか大きな問題があり、抗議行動が起きているが『マイナンバー制』をめぐって、強い反対運動が起きるだろうか」と聞いた。
越智教授は、この点を次のように分析している―
「集団的自衛権とか原発再稼働という問題に比べると、非常に実務的な色彩が強いように、今のところは見えている。はっきり言って、日本の労働者の大半を占めるサラリーマンにとっては、税金や年金が給与から『天引き』されているので、新制度が導入されても、給与が減るとか、実質的な経済的変化がない。あくまでも自分の経済状態が、国家によって一括管理されるという事で、それについての政府の説明は、今のところデタラメには見えない。少なくとも表面的には、そうは見えないので、広範な大衆が異議申し立てに立ち上がり、デモという形で抗議行動が起こる可能性は低いと思っている。」
新潟国際情報大学の越智敏夫教授は、このように述べた。