こうした欧米の期待を一身に背負っているのが、シリアで活動中の多数派反政府勢力の一つ「自由シリア軍(FSA)」だ。
ロシアの政治学者ウラジーミル・レペヒン氏は「そもそも穏健な在野勢力など、フィクションに過ぎない」と見ている。以下レペヒン氏の見解を皆さんに御紹介したい。
「まず申し上げたい事は、もう大分以前から『自由シリア軍(FSA)』は、もう全く世俗的な存在ではないという点だ。初めは確かに、あそこには、世俗的はグループや運動体の代表者、例えばアサド大統領に反対する将校達やシリア政府軍からの脱走兵、どこにも属さない自由な若者達、さらにはインテリゲンチヤもいた。しかし『FSA』が、この4年変化をとげた間に、そうした世俗勢力の代表といった要素は失われ、事実上、比較的穏健な考えを持ったメンバーはすべて、難民としてシリアを離れてしまった。ゆえに、欧米が『FSA』の戦闘員と見ている人達の大部分は、私に言わせれば、もう『IS』と何ら変わりがない。
外国のスポンサーによる『自由シリア軍(FSA)』への資金援助を通し、また米国製の武器や、米国の訓練センターでの戦闘員の養成を通じて、この組織は、過激派イスラム主義者を含めた、シリアにおける反アサド勢力全ての連合体になるはずだった。禁止されたテロ集団である『IS』に入っていない、バラバラな在野勢力グループの行動に対するコントロールを保障するため、『FSA』の外国のスポンサーらは、2013年に『シリア・イスラム戦線』や『自由シリア軍(FSA)』『イスラム軍』などをベースに所謂『イスラム戦線』を作った。しかしスポンサーらは、この組織をコントロール下に置く事に失敗し、2013年末には、この『イスラム戦線』の戦闘員らは、トルコとの国境にある『FSA』の最高軍事評議会本部を占拠してしまった。そうしたわけで『イスラム戦線』の創設は、事実上、上手くいかず、それでなくても力を失っていた『FSA』はさらに弱体化した。
『FSA』の本部は『イスラム戦線』による占拠後、消滅した。ここから次のような問いが生まれる。欧米の政治家達は、シリアに『FSA』という穏健な在野勢力が存在するという神話を育て、彼らに武器援助をしながら、何を期待しているのだろうか?-という疑問である。
『FSA』は、欧米の諜報機関が、過激なイスラム主義者グループとコンタクトするのをカモフラージュするための作り話に過ぎず、それ以上のものではない。『穏健な在野勢力』という神話を必要としているのは、米国政府とその衛星国である。その理由の第一は、西側の一般の人々の間に、親米連合勢力が『IS』と、自主的に戦っているという幻想を創り出す事だ。そして第二に、穏健な在野勢力を装うイスラム主義者の手で、アサド政権を倒す事である。まさにそれゆえに、米国の諜報機関は『IS』や、存在もしていない『FSA』など他のグループの陣地に関するデータを、ロシアと共有しようとしないのである。
実際上、シリアに穏健な在野勢力など存在しない。そうした勢力は、死に絶えており、残ったのは、ジュネーヴやモスクワあるいはアンカラで開かれる平和維持フォーラムで、スポンサーの利益のために、シリアの『民主派』のリーダーを装う、数百人の臆病者のグループだけだ。
またロシアが『穏健な在野勢力』を空爆しているとの非難は、今日シリア領内には、反アサド側に立つ勢力など、イスラム過激派グループを除いて残っていないという単純な理由からも、馬鹿げたものと言わざるを得ない。ロシア軍機が今、誰を攻撃しようと、それが『IS』であれ『FSA』であれ、それらは、シリアを自分の敵ばかりでなく一般市民の血で満たそうとする様々なテロリストに対するものである。欧米が、武器や資金、その他のものをいかなる在野勢力に援助するとしても、もう今日それは、シリア国民によって合法的に選ばれた政権に対するばかりでなく、ロシアに敵対する行為となるだろう。」