ソチで開かれたヴァルダイ会議でのプーチン演説は、明らかに、2007年のミュンヘン国際安全保障フォーラムでの演説に呼応するものである。簡略に言えば、ミュンヘンでプーチン大統領は、西側、特に米国を、民主主義的価値観を口実に、他の国々や国民の意見や利益を考慮せず、自分の意志を世界中に押し付けている、と激しく批判した。武力さえも使って、自分の意志を押しつけ、政府を変えたり、独立国家を爆撃したりしていると批判した。プーチン大統領は「一極的世界は受け入れられない。そうしたものを建設しようとの試みは何もよい事をもたらしはしない。なぜなら抵抗を呼び起こし、相互不信の高まりと反目を煽るからだ」と警告した。
このミュンヘン演説は当時、爆発的な効果を生んだ。会議に出席していた西側政治家の反応を目にするだけでも面白かった。ロシアのテレビ局は、彼らの顔をアップで映し出したが、その表情から判断して、西側の政治家達が一様に驚きを隠しきれないのがよく分かった。ロシアの大統領から、ああした演説を聞こうとは、彼らは明らかに予想もしていなかったのだ。彼らは、すでに国際舞台で帳消しにされたに等しい存在である、ロシアの大統領が、ソ連邦崩壊後、西側が自分のものとした秩序形成の権利に対し、反乱を起こした事に、驚愕したのだった。
残念ながら、西側は当時、公正で対等なパートナーシップを求めるプーチン大統領の挑戦を真面目に受け止めず、ユーゴスラビアやアフガニスタン、イラクでテスト済みの戦術を、又成功裏になされているNATOの影響力を対ロシア国境まで拡大する戦術を続けた。一方ロシアでも、プーチン大統領のミュンヘン演説に対し、多くの人々の間で、しかるべき反応があったわけではない。リベラル派は、帝国主義的野望のために西側と喧嘩しようとしているとして批判した。また愛国主義勢力は驚き「プーチンの言ったことはすべて正しいが、ロシアには本当に、米国と公然と喧嘩できるような力があるのだろうか」と懐疑的だった。
その結果、今回のソチで開かれたヴァルダイ会議での演説の中で、プーチン大統領は、ミュンヘンで述べた多くのことを再び繰り返しの述べなくてはならなかった。
あれから世界の状況は、著しく悪化してしまい、我々の前には、ウクライナにおける深刻な危機があり、欧州には何万人もの難民が押し寄せている。中東では「IS(イスラム国)」のテロリストらに、広大な領土が奪取された。米軍主導で何十もの国々が参加する有志連合が、一年半、「IS」を空爆したが、テロリストは単に、その勢力を拡大しただけだった。そうした事から、ロシアは「IS」との戦いを始めざるを得なくなってしまった。その理由の中には「IS」の部隊に参加して、数千のロシア及びCIS諸国出身者が、ロシア及び中央アジア地域にカリフ制のイスラム国家建設を夢見て戦っているという現実がある。しかしロシア軍機が、シリア領内の「IS」の陣地に対する効果的で正確な空爆を開始するとすぐ、今度は、ロシアが、まるで平和的な一般市民や「穏健な在野勢力」に対し空爆しているかのような非難がなされた。米国のオバマ大統領は「爆撃では、問題を解決できない」とも言った。しかし、ユーゴスラビアやイラク、そしてアフガニスタンの問題を、爆撃によって解決しようとしたのは、他でもない米国ではなかったのか。シリアでの空爆を決めたのは、まずオバマ大統領自身では、なかったのか。
ロシアを地上最大の「悪の主役」にしようとする西側マスメディアの執拗な宣伝キャンペーンに反して、欧州やアジア、そして米国国内でさえ、ワシントンが押し付ける「正しい」世界地図が、本当に正しいのかどうか疑いの念が明らかに高まっている。そしてますます多くの人達が「実際プーチンの言う事の方が、もしかしたら正しいのではないか?」との問いを発している。
率直に言えば、ミュンヘン演説と同様に、ソチでの今回のプーチン演説の中身を注意深く読めば、この問いに対する答えは明白だ。「プーチンの言う事は正しい」のである。